魔法少女しゅぴーげる☆くーげる

木倉兵馬

第1話 本編

【これまでのあらすじ】


 二〇一四年三月某日、奈良県のある遺跡において、封印されていた百八柱の悪魔たちが強欲な冒険家の手によって解き放たれた。それ以降、日本を中心として世界に超常の力による事件が多発するようになる。同年六月某日、福岡県に住まう高校一年生の水鏡七夜は異変を知る。家に帰ろうとしても帰れないのだ。街の中が迷路になってしまっていたことに気づいた彼女は、瞬時に悪魔の仕業だと断じる。なぜ七夜は理解できたのか? 答えはそう、水鏡七夜は魔法少女だからだ!


【本編】


「この街に私がいると知っていようがいまいが、いい度胸ね……! 悪魔滅すべし!!」


 何の悪魔かは知らない。どういう意図かも知らない。だが悪魔は断罪されなければならない。罰せねばならない。この街でその力を持つのがただ一人なら、それが自分なら、今すぐに迷いを振り捨て戦うべきだ。

 それが魔法少女の務めだと水鏡七夜は理解している。


「輝け! しゅぴーげる☆くーげる!!」


 呪文を唱えるシャウトすると、彼女は魔法少女しゅぴーげる☆くーげるへと変身した!

 ――その姿は一般的な魔法少女とは異なり、むしろカウガールの服装に近い。

   思慮深さを示す薄いベージュのテンガロンハット、

   勇ましさの赤いバンダナ、

   身軽さを魅せる紺を中心としたベストにロンググローブとブーツ、

   妖艶さをあおる銀に輝く上下のビキニ、

   意志の強さを表す黒いベルトにチャップス。

   銀の重厚なベルトのバックルには万物を見通す瞳が描かれている。――


 変身し終えると、しゅぴーげる☆くーげるは準備体操を始めた! 屈伸、跳躍、アキレス腱!! どれも重要な事だ!! みんなも激しい運動の前には準備運動やストレッチを忘れるなよ!

 念入りに準備体操をし終えると、彼女は跳んだ! その高さおよそ七メートル!!


「迷路の攻略法……! それは壁なんか無視すること!!」


 彼女は嘯うそぶく! 実際その通りだ。何も相手が得意とする戦術に合わせる必要はない。むしろ相手の思惑など無視してしまえ! これもまた重要な教訓だ!

 しゅぴーげる☆くーげるが高く跳躍し、低空飛行して悪魔を探し始めた時、彼女目がけて飛んでくる女性が! いったいあれはなんだ!? そう、彼女こそはしゅぴーげる☆くーげるの守護天使、サンダルフォンだ!!


「七夜ちゃん遅くなってごめんね、League of Legendsが楽しくてやめられなオゴーッ!!」


 突如弁解を始めるサンダルフォンに向かってしゅぴーげる☆くーげるの鉄拳が飛ぶ! 五十メートルほど吹っ飛ばされ地面に激突するサンダルフォン!!


「またLeague of Legendsやってたのか! もっと緊張感持ちなさいよ、この駄天使!!」


 大人気ネットゲームにハマっていて遅れたと語った守護天使に怒るしゅぴーげる☆くーげる!


「でっ、でもね、もう少しで私プラチナプレイヤーになれるとこだっオゴーッ!!」


 弁解ですらない発言を始めるサンダルフォンに対し無言で鋭い蹴りを入れるしゅぴーげる☆くーげる!!


「七夜ちゃん酷い! 私が早くプラチナプレイヤーになりたいって知ってたでしオゴーッ!!」


 逆ギレを始めたサンダルフォンに無言でマウントしてパンチするしゅぴーげる☆くーげる! コワイ!


 一方その頃――。

 街を迷路に変えた張本人、悪魔「迷路王」は異変を感じ取っていた。


「俺の迷路に魔法を使える存在が二人……一体何者だ?」


 迷路王はその名の通り迷路が大好きだ。もし彼が人間であれば寝食を忘れて迷路で遊ぶほど。皆にもこの楽しみをわかって欲しいという思いからこの街を迷路に変えた。だが魔法を使うものが現れたとなると、迷路の楽しみは崩されてしまう。


「魔法を使って迷路を攻略しないように早々に注意しなければな……」


 彼は上空高く飛び上がり索敵を始める。


 視点を魔法少女しゅぴーげる☆くーげるたちに戻そう。

 しゅぴーげる☆くーげるはサンダルフォンを正座させ説教していた。


「だいたいね、この世に危機が迫ってるから日本国内で食い止めようって言い出したのは誰よ?」


「はい、わたくしサンダルフォンです……でも本当の提案者は私の上司だからわたくしは無罪だと思いまオゴーーッ!!」


 言い訳する守護天使の脳天に魔法少女の空手チョップが叩き付けられる!


「私が言うのもおかしいんだけど、責任の重大さ分かってるの?」


「……」


 再び叩き付けられる空手チョップ! 「オゴーッ!!」


 しゅぴーげる☆くーげるの顔は例えるならまさに般若の面そのもの! コワイ!


「すみませんでした、わたくし反省してます、ちゃんと悪魔を退散させます」


 しおらしくなるサンダルフォンにしゅぴーげる☆くーげるが追い打ちを掛ける!


「これから一週間デザート抜きね。あとゲームも一日一時間に短縮。違反したらご飯抜きだから」


「ちょっと待ってくださいその決定重すぎません!?」


「あァッッ!?」


 しゅぴーげる☆くーげるの恫喝! サンダルフォンは萎縮!


「……すみませんでした。このサンダルフォン、これから一週間一日三回のデサートを我慢します……あと、グスッ、ゲエームもぉ、えぐっ、一日いぢにぢ一時間いぢじがんでぇーっ、おおっ、やべまずぅ」


 アナヤ! サンダルフォンの嘘泣き攻撃だ! 彼女はこの行動によって温情を引き出そうとしている……なんと計算高いことか!


「……嘘泣きしても撤回しないよ。あとこれからの働き次第ではもっと罰が重くなるから」


 だが帰ってきたのは無慈悲な現実!! サンダルフォンは神を呪った!


「え……ちょっと待って、働き次第ではってことは」


「あ……あー、ちゃんと仕事したら罰を軽くしてもいいよ。ちゃんと仕事したら、だけど」


 呆れた顔でしゅぴーげる☆くーげるが言った。途端に喜色満面となるサンダルフォン!


「わ、わーい!! 七夜ちゃん大好きー!!」


「でもデザートは煎餅二枚だけな。あとゲームは二時間まで」


 ナムサン! モーニング・スリー・イヴニング・フォーだ!! 


 ――ちなみにサンダルフォンが普段デザートに食べるのはこのくらいの量である

   ・クリームパン一個

   ・アンパン一個

   ・プリン一個

   ・杏仁豆腐一個

   ・カステラ四分の一

   そしてサンダルフォンはゲームを一日八時間プレイし、睡眠に十時間かける。残る六時間はテレビかネットか漫画を読むか食事をするかプラモデルを組み立てるかフィギュアを鑑賞するかに費やす――


「どうして煎餅二枚だけなのよぉーっ!? この鬼! 悪魔! 極悪非道! 悪逆無道! 残虐ファイター! 百鬼夜行! 冷酷無残! 横行跋扈! 土豪劣紳! 表裏比興!」


 怒るサンダルフォン! だがそれは逆ギレだ! みんなは真似しちゃいけないぞ!


「あァ? じゃあ煎餅一枚に減らすぞ」


「ひぃ! ごめんなさい!」


 こうしてこの話は一旦打ち切りになった。




 しょげかえったサンダルフォンを連れ飛び上がったしゅぴーげる☆くーげるは、やがて七メートルほどを低空飛行する存在に気づいた。相手もこちらに気づいたらしく、怒号を飛ばしてくる。


「貴様ら! この迷路王の作った大迷宮でよくも遊ばなかったな!?」


 魔法少女は相手が悪魔で、この事態を引き起こした張本人だと知る。やや呆れつつ彼女は言う。


「迷路王って……。今日びスーパー戦隊でもそんな直接的な名前付けないでしょ?」


「七夜ちゃんわかってないよ! 子供ウケがいいのはわかりやすい直接的な名前のほうなの!! そんなものだから子供ウケが悪オゴーッ!!」


 守護天使の発言に対し、セクシー路線だから子供のウケなんざいらんわ、と叫びながら鉄肘をサンダルフォンに食らわせてしゅぴーげる☆くーげるは迷路王に相対する。


「さて……、街を迷路に変えるなんてずいぶんと迷惑なことしてくれたわね?」


「何ぃ!? さては貴様迷路の楽しさがわからんアホか!? この俺特製の迷路はただのゲームじゃないぞ! 芸術だ! 人と人との心をつなぐ絆を表しているんだ!」


 迷路王は激昂して叫んだ。


「悪魔が絆ねえ……ま、いいわ。パパっと倒しちゃうから」


「お、おい! 俺は無抵抗なんだぞ!? それに俺は迷路を作る以外に能がないん……」


「あっそ。じゃあ好都合ね」


「ちょ、ちょ、ちょっと待て!」


「い☆や☆」


 可愛らしくそう言うとしゅぴーげる☆くーげるは呪文を唱えるシャウトする。


「ご覧あれ、救世の舞を! 展開せよ、シュピーゲルクーゲル!!」


 瞬時に魔法陣が展開される。その陣の中には半円形のステージがあり、それに正対するように一脚の椅子が置かれていた。舞台の上からはディスコボールがいくつも吊るされている。薄暗く、淡い光が点いたり消えたりしている中に迷路王はいた。


「う……動けん!? くそっ、俺はここで封印されるわけには……っ!!」


 迷路王は舞台に正対した椅子に縛り付けられている。何とかして脱しようとするが、もがけばもがくほど彼を縛る縄は強く締まっていく。


 ――もはや逃れることはできんぞ。覚悟を決めろ。


 どこかから聞こえた声に迷路王は怯える。と、する内にスポットライトがステージを照らす。


「頼んだわよサンダルフォン! ここで頑張らないでどうする!?」


「オーケー、煎餅二枚でもないよりマシだもんね! よーし、やっちゃうぞー!!」


 ステージ上にしゅぴーげる☆くーげるが立っている。サンダルフォンはマイクを手にステージの袖だ。

 音楽が流れ出す。サンダルフォンは歌う。


   キミの目の前の壁は高い 

   それは確かなんだ

   キミの目の前の溝は深い

   それも確かなんだ


――しゅぴーげる☆くーげるの巧みなステップ! 迷路王は苦しむ! 「グワーッ巧みなステップ!」――


   だけど ねえ だけど

   これじゃ 無理だよって

   最初から 諦めちゃ 勿体なくない?

   束になっても 三人寄っても

   どうしようもないときだってあるけど

   さあ 前を向いて 涙を拭いて


――しゅぴーげる☆くーげるのウィンク! 迷路王は苦しむ! 「グワーッかわいいウインク!」――


   悩んだって 行き詰まったって

   きっと 道は続いてる

   この辛さ 乗り越えたなら

   きっと 素敵になれる

   そう きっと 無敵になれる


――しゅぴーげる☆くーげるが手を叩く! 迷路王は苦しむ! 「グワーッ陽気なハンドクラップ!」――


   悩んだって 行き詰まったって

   きっと 道は続いてる

   この辛さ 乗り越えたなら

   きっと 素敵になれる

   そう きっと 無敵になれる


――しゅぴーげる☆くーげるの決めポーズ! 迷路王は苦しむ! 「グワーッかっこいいポーズ!」――


「あああああああああーっ!! ちくしょう、俺にはまだ迷路の楽しさを広めるという使命があるのにぃぃぃぃぃ……ぃぃぃぃぃ…………っ……」


 迷路王は断末魔の叫びを上げながら、一枚のメダルへと姿を変える。もはや声一つ、音一つすらなかった。

 こうして迷路王は封印された。しゅぴーげる☆くーげるは変身を解き、水鏡七夜に戻った。彼女は迷路から元に戻った街を歩きながら伸びをする。


「そんなに強い相手でなくて助かったわ。帰ってチーズケーキでも食べましょうかね」


「えっ!? いいの?」


 喜色満面のサンダルフォンに七夜はピシャリと言い放つ。


「あんたには煎餅二枚よ」


「あんまりだぁーッ!!」


 サンダルフォンの叫びが虚しく街に響いた。

 こうして日本、いや世界に異変の影響が及ぶことは避けられた。だがいつ悪魔たちが陰謀をめぐらせ悪事を働くかはわからない。決して気を抜くことのできない状況だ。

 戦え魔法少女しゅぴーげる☆くーげる! まじめに働けサンダルフォン! 世界の均衡は君たちの肩にかかっている!!


【おわり】


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