太陽に焼かれる日常

雨月 葵子

第1話 僕が目覚めるのは

 わざと開けたカーテンの隙間から朝日が部屋を照らす。僕は、朝顔が花びらを広げるように、目を開ける。

 世界の始まりのような光に顔を焼かれることが気持ちいい。

 そして、僕をこのまま死なせてくれと願う。このまま光に飲み込まれたい。

 会社に行かなくていいし、大事な人やものを忘れることができるから。

 僕が日常を続ける意味なんて、ない。

 みんながそうしているから、僕も仕方なく日常を生きているだけ。

 僕から日常を奪ってくれ。ここで野垂れ死ぬ理由をくれ。


「あんた! はよ起きや!」

 嫁が部屋の扉を勢いよく開ける。

 壁にぶつかって跳ね返る扉の音が僕の日常を突きつけてくる。さらに布団を取られた僕はもうどうすることもできない。

 起き上がって、嫁の視線を背中に感じながら洗面所で顔を洗う。

 朝ごはんは、鮭が乗ったご飯と味噌汁。

 娘は味噌汁に入っているなめこを残して、テレビを見ている。高校に入ってからあまり口をきいてくれない。

「何ボケっとしてるんよ。食べたんなら仕事行き。片付けられへんやろ」

 僕はこんな風に毎朝怒られる。

 それでも僕が幸せを感じるのは、今でも嫁と娘が大事だからだろうか。

 仕事で失敗し、陰口を言われようと、僕は会社に行く道しかない。

 人生の屈辱すら彼女らには敵わないらしい。

 

 僕が毎朝目覚めるのは——。

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