030:透ことトールの活動記録
さて、あれからそれほど変わり映えのない生活が……大体10日ほど続いている。
大雑把ではあるが、その生活を振り返ってみようと思う。
まず、俺とゲイリーの二人がかりで大幅に道具を増やした。
鹿の肩甲骨を二つに割って加工した骨のノコギリ。
以前も作ったナタに石斧、それほど鋭いわけではないが野草の採取や木片を削るのには使える石のナイフ。
なにより、俺達がもっとも力を入れたのは食器や調理道具の作製だった。
煙でいぶすための網――枝でフレームを作り、乾燥させたツタを網の目に巻き付けて結びつけた物等も数を増やし、燃料さえあれば焚火を複数焚いて大量の肉を短時間で燻す事も可能になった。
で、それにプラスしてそれぞれの皿――シチューやスープの場合もあるから深皿を予備含めて六皿。そして箸、フォーク、スプーン……ていうか匙というかレンゲ? うん、まぁ、それをいくつか作っておいた。
やっぱりアシュリーのナイフを回収できたのが大きい。
一応削ったりする作業はこれまで通り焼いた石や火のついた枝等を使って適度に焦がして……という工程を繰り返しているが、細かい所や仕上がりが非常に綺麗になった。
ひょっとしたらその近くにサバイバルパックもあったかもしれないとゲイリーに詳しく話を聞いてみたのだが、近くには間違いなく無かったと断言。
つまり、ゲイリーもあの時にかなり念入りに調べてくれたのだろう。
いやもう本当に彼には頭が下がる。
理由こそ聞かされたからこうしてリーダーの役を務めているが、やっぱりゲイリーの方が向いているんじゃないだろうか?
俺が意見を言った時に、肯定しながらも違う可能性や方向性を言ってくれるからホントに助かる。
本人にそれを言ったら、照れたのか俯いてたけど……。
中性的なイケメンだから、そういう仕草も似合うとか本当に卑怯だと思う。
さて、それ以外だが……少し前までの拠点構図としては、真ん中に軽く石で囲んだ焚火場があり、その横に煮沸用の丸太や燃やす用の枝、トイレの行く時のために煮沸消毒して乾かした葉等を置いてある場所があった。
で、それを囲むようにそれぞれを囲む場所があるわけだ。
今では一番中心の焚火場を覆うように屋根がある。
雨の時のために用意した物だ。
なるだけ長い枝をしっかり地面に打ち込んで支柱とし、その上に別に作った屋根――雨がたまったりしないように尖らせた奴だ――を乗せた簡素な物。
簡素とはいえ、とりあえずよっぽどの豪雨でもないかぎり大丈夫だろう。
やや広めに作ったので、乗っけた後でゲイリーに肩車してもらって紐で可能な限り結んでおいた。
結び方というか……ロープワークって言うんだっけ? はゲイリーの方が得意だから俺が下になろうとしたら、「俺の方が力があるからより安定するハズだ」という事で下にさせてしまった。
なんか、こう、ごめんね? 非力でさ。
後でそう謝っても「いや気にしなくていい」って言うだけだし、多分気を使われたんだろう。
顔赤かったのはあれか。キチンと感謝を伝えようと何度もお礼の言葉言ったのがやはり照れくさかったのだろうか。
なんだかんだでゲイリーってそういう……なんだろう?
人間味があるというか照れっぽいというか、そういう所があるからやっぱり好きなんだよなぁ。
まぁ、作業としてはそんな所か。
今は骨ノコギリとナタを駆使して、できるだけ真っ直ぐな木を切り倒して木材を確保している。
太いのはノコギリの強度的に無理だから比較的細い奴ばっかだけど、シェルターの改築しかり、その他拠点の改良や罠,道具に使える丈夫な木材の確保は割と重要事項だと気付いたのだ。
で、食糧。
こっちはトータルで見れば悪くない。
あの後も森の中で見つけた水たまり付近の罠に獲物が引っ掛かってくれた。
さすがにこの間の野豚のような中型以上の獲物は掛かっていないが、それでも満足できる獲物がかかった。
なぜか額に角が生えている兎に毛だけではなく皮膚まで真っ黒なビッグサイズのリス……っぽい何か――なおサーチをかけても名前だけは理解不能な言語で分からなかった――がこの十日の間に引っかかっていた。
率直に言うが、滅茶苦茶美味かった。特にリスっぽい何か。
骨はしっかり火を通したら煎餅みたいに食べれたし、茹でたら美味いスープになった。最高である。
おかげで肉もスープもすぐさま無くなってしまったが、これは仕方ない。
ゲイリーもかなり気に入ったらしく、黒リス狙いの罠を増設したと言っていた。
で、湖に仕掛けた魚の罠――魚籠だが、こっちは……一応成果は出ていた。
日課として罠の確認に出た所、一匹だけかかっていた。
なんと言うの? こう、『ザ・川魚』って感じの……マス? っぽいのが籠の中で暴れていたんだ。
魚籠を引き上げた時にいつもと重さが違った時点でスッゴイ嬉しくてすぐさま腕突っ込んで……うん、魚がヌメるものだって忘れてた。
掴みあげようとしたら暴れられて……逃げられてしまったよ。ちくしょう!
一緒にいたアオイからは、「罠が作動するのがわかっただけでも大収穫ですよぉ♪」なんて慰められる始末。
いや、だからなんだという訳ではないけど……なんか、本当にごめんなさい。
代わりというかなんというか、例のタニシもどきの泥抜き作業は全部俺が引き受けた。
いや、これが予想以上に汚いのだ。あと臭い。
先日作った不格好なバケツに大量のタニシもどきを水につけていたのだが、ちょっと放っておいただけで泥やら糞やらですごい水が濁るのだ。もうすんごい勢いで。
米を洗う感じでタニシもどきを洗って水を捨てて入れ直すという工程を一日に何度も繰り返して、最近ようやく落ち着いて来た。
肉ももうなくなった所だし、今日の夕飯はこいつらにしよう。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「なにか書いていたのか?」
「ん、あぁ。文字忘れないように、ちょっと日記をね」
膝を机代わりにして広げていたノートを閉じる。
漢字はいくつか忘れているのは確実だったが、まさか一部ひらがなですら迷うとは思わなかった。
似ている『ね』と『ぬ』。どっちを書こうとしていたんだっけと五秒ほど迷ってしまった時はなんか凹んだ。
「君の所の文字って中々に独特というか……複雑よねぇ」
午前中の作業を終えて、昼飯を終えてからそれぞれで休憩を取っている俺たち四人。
アオイは例の針葉を石で潰してお茶を淹れる準備をしていて、ゲイリーは俺の右側で、大きめの器を作ろうと焼いた石を木材の上に乗せて焦がしている。
アシュリーはアシュリーで、俺の左側で俺の教科書と睨めっこだ。
「その複雑な方の文字は元々隣国の物だったんだ。で、そっから独自に変化を続けて、他の単純な文字になったんだ」
「隣国の言葉ってのは発音も一緒なの?」
「一部は……だけど今はもう完全に別物。ウチの言葉はウチだけの物になったからな」
「あぁ、そういえば島国って言っていたわね」
今アシュリーが目を通しているのは歴史――日本史の教科書と資料集だ。
アオイもたまに目を通していて、何を書いているのか代読させられる事がある。
娯楽が少ないと、こういうのですらいい時間つぶしになるのだろう。
「少しずつ君の所の文字も読めるようになって来たけど、眼が疲れるわねぇ。数学の教科書は面白かったけど」
「科学の国って言うんだから、当然そっちも数学や化学は進んでいたんだろう?」
「えぇ。ただ、ウチもアオイの所程じゃないけど階級社会でね。一定クラス以上の国民じゃないとこういう教育は受けられないの」
「マジでか」
「えぇ。さすがに文字の読み書きや基礎数学――君の所でいう算数かしら。そういうのは教えるけど……あと、乗り物の運転方法とか」
「俺からすると、子供の頃に運転を教えるってのがまったく理解できん」
「運搬や農業には必須だから、早いうちから教え込むのよ。こういうのって早いうちから生活の一部にしておけば、一五歳くらいにはそれだけで立派な労働力になるわ」
割と近い文化だと思っていたアシュリーも、こういう話を聞くと違うなぁとつくづく感じる。
「ふぅん。それじゃあ、こういうのはどこらへんから習うんだ?」
そういって俺は、横に置いていたナイフと色々と削られた数本の木の枝を目で指す。
ナイフの扱い方を教えてあげると、アシュリーから習って先ほどまで練習していた成果である。
「サバイバル技能は基本的に軍人だけよ。まぁ、教育を受けられるクラスの国民なら、本とかで調べる事も出来るけどね」
「……読書にすら制限付いてんのか」
アシュリーから練習しておけと言われているのは二つ。
一つはトライスティック。
これはナイフで枝や木材を加工する練習で、色々な削り方などを一本にまとめた物だ。
アシュリーが目の前で作ってくれたのをお手本として、俺も何本かやっているのだがこれが結構難しい。
例えば枝を杭として使うために、先端を地面に刺さりやすいよう綺麗に尖らせたり、その反対部分はハンマー等で叩いても割れない様に平たく削って角を取る必要がある。
これとは別に枝と枝を組み合わせる必要がある時――例えば罠を仕掛ける時など――に、噛み合わせる部分が程良く安定するように削ったりなど……とにかくまぁ色々あるのだ。で、これが全てすごく難しい。
「戦争中だったし、下級……言い方悪いけど下の人間は前線要員だったからね。仮に捕虜になった時に知られる事は少しでも少なくしなきゃいけなかったから……。検閲済みの娯楽本とかなら自由に読めたけどね」
「理解は出来るけどキッツいなぁ、それ」
なんだろう、そういう自由がないっていうのが……こう、何か引っかかってしまう。
「こちらも似た様な物だ。だが、いわゆるサバイバル技術関連は国民全員の必須だったな。今トールがしている練習も、こちらの子供達は皆していたな」
「マジでか」
「あぁ。火起こしも含めてな」
で、もう一本。こっちはフェザースティックという……なんだろう。枝の同じ所を何度も何度も薄く削って、削ぎ落さずに……こう、クルクルーってした奴を何枚も何枚も作っていく奴。
これ、着火剤として非常に優秀らしい。
正直、未だにゼロからの火起こしは苦手なので、先日の樹液の着火剤みたいに火起こしが楽になる道具は可能な限り集めておきたい。
「こっちじゃ火なんてスイッチひねるか押すだけで簡単に出るもんだったし、そもそも最近じゃあ火も使わない所多いしなぁ……」
「火を使わないでって……どうやって料理していたんだ?」
「色々あったんだよ。そもそも火が最初から要らない奴とか、火というか熱で料理する奴とか」
詳しく説明しろと言われても出来ないけどさ。なんかそういう物としか把握していないんだから。
まぁ、アシュリーはなんとなく把握してくれたのか「あぁ……」と呟いて頷いてくれている。
「駄目だな。火が話題になるとそのまま腹が減る話題になってしまう」
「まぁ、そうよねぇ。少しずつ安定したきたけど、美味しい物は食べたいし」
「そうなるとやはり、調味料……せめて塩分は確保したいが」
「現状、動物の血液でどうにか補っているって形だからな……」
そうなのだ。
ちょいと味の濃い野草なんかを調味料代わりに使っていたりするが、胡椒ほどのパンチがない。
野豚の時はそれ自体がかなり臭かったのと、例のタマネギの様な野草の渋みが上手くマッチしていたが、それ以外だと何かが足りない。
もうちょっとこう、慣れ親しんだ味を口にしたいのだが……。
「皆さーん、お茶が沸きましたーーっ! カップ持ってきてくださーい!」
そうこう話をしていたら、アオイが燃やした石を放り込む火箸を握りしめたまま俺たちを呼んできた。
「……食後の一杯か」
「貴重なビタミン源だし、大切にしなくちゃね」
「おい、止めろアシュリー。そういう言い方されると嗜好品が栄養補給源にしか見えなくなってくる」
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