第5話
今日は彼からCDを貸し手貰う約束をした念願の水曜日。
父親と一緒に行きたいっと頼んでいたので先週のように車で送ってもらう事になったが、父親が娘の頼みに純粋に喜んでいる姿を見ると、それが本当は"気になっている人と話したいから"という理由である事に少し罪悪感が芽生えた。
静かな教室に本当に彼がいるのか不安になりながらも、その扉を開くと今回は橋津は机に伏せておらず入り口に向かうように座ってケータイをいじっていた。
その姿を見つめながらも自分の都合良く彼が寝ずに待っていてくれていたかのような様子に、絢の緊張していた頬が勝手に緩んでいた。
入り口からいつまでも動かない絢に、今日は橋津から「おはよ」と声をかけてくる。彼の声にようやく目の前の光景が現実の事だと認識出来たのか、「おはよう」とはにかみながら絢も返事を返した。
自分の席に鞄を置きながらも、こっちを見て動かないでいる橋津にこっちから行った方がいいのだろうと前回と同じように彼の後ろの席に向かう。
彼女が座ると橋津は鞄をごそごそと探り出した。
「これ」
「あっ、ありがとう」
絢は受け取ったDCを大切そうに抱える。
ただこれで当初であった用事が終わってしまい、2人は話す事も無く沈黙になってしまう。
ーーせっかくの機会なのに、何で私はこうも……
絢は意を決して話しかけようと彼を見ると、こっちを見てたのであろう彼とバッチリ目が合ってしまいパニックになった頭が再び勝手に彼女の口を動かしていた。
「そっそいうえば、橋津君は何で早く来てるの?」
絢がそう尋ねると、彼は少し固まったかのよう感じて絢は変な事があったかなっと不安になった。
「しずかだから」
彼がポツリっと答えるのを見て、どこか静かさを好む事に納得した絢だった。
今まで見て来た彼の姿を思い出していると今度は彼からと尋ねられる。
「園田はなんで?」
彼が自分の名前を行った事で自分の名前がどこか特別に感じ、彼女の耳の中にずっとじわりと響いて残った。
ーー私の名前知ってくれてたんだ。
そんな風に思っていた彼女に質問の内容が分かってないと思ったのか、橋津は続けて言う。
「何で早いの?」
「実は水曜はお父さんが……」
事情を説明しながらも、絢の耳には先ほどの名前の余韻が耳に残っていた。
その後もポツポツもとりとめの無い話をしながらも、気づけば登校時間が迫って来ており皆に見られる前に話しを切り上げながらCD返す口実に来週も約束を交わしたのだった。
ーーこの時間が好きだな。
絢は彼のことが好きとはまだ分からないものも、こんな風に言葉少ないものも話し時たま微かに頬を緩める橋津の事を他の人に見せたくないっという思いがある事に気づいたのだ。
何かと目立つ橋津と噂になりたくないのではなく、どこか穏やかな朝の橋津を独り占めしたいだけなのだと絢は思っていた。
次のお昼の放送当番の時に、先生からも連絡事項があるとの事で打ち合わせがてら先輩も一緒だった。
「そう言えば絢かけたい曲あるんでしょ?」
先輩と打ち合わせが終わると沙紀は絢に聞いて来た。今回は絢が選曲するので沙紀に曲探しをしなくていい旨を伝えていただった。
「珍しいよね、絢が選曲何にしたの?」
絢は続けざまに聞かれて、あの日橋津にオススメされたCDを沙紀に渡した。
「へえ〜珍しいな。それに園田洋楽なんて聞くのか?」
それを覗き込んでいた先輩もどこか気になる様子で聞いて来る。
「いつもは聞かないんですけど、ちょっと友だちからオススメ教えてもらって」
「ふ〜ん、これを聞くような友だちね。ねえ友だちってお……」
少し慌てたように話す絢に、先輩は詰め寄るようにと質問を続けようとしたのだが、
「あー! 知ってるメジャーで無いけど音楽通では結構有名な人だよね!この人!」と沙紀が割って入った事で、質問が曖昧になり絢も出所を追求されずに済みほっとした。
結果絢が選曲したので、今回は沙紀が原稿読みを行なったが緊張し何回も噛んでしまったからか「私には向かない!」と放送部員にも関わらず、今後は原稿読まない宣言を高らかにした事で絢と先輩は笑ってしまった。
教室に戻ると5限目の準備でクラスは騒がしかったが、彼がお勧めし曲を流したので彼の反応が気になり教室に入るなり彼の方をつい伺ってしまう絢だった。
彼の方もこっちを見ていたが、何故か少し沈んでいるように見える。
ーーもしかしてオススメ曲を勝手に選曲したからかな?
様子が少し違う彼に少し焦った絢は、来週CDを返す時にさりげなく誤ろうと心に決め他のだった。
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