第19話 コード・グレー
「……これは安全な回線か?」
「はい。岩国の研究所ですが回線に心配はありません。――長官。問題が起きました」
「なんだ? 現場のことならば、いちいち私に報告する必要は無い。好きにやれ」
「わかっています。ですが、あまり好きにできない事態に陥っているのです」
「……回りくどいな。もっと簡潔に何があったのか報告しろ」
「端的に言えば――コード・グレー。離脱者……裏切者です」
「そうか。そろそろ出る時期だとは思っていたが、それについても報告の必要は無いと前に言ったはずだ。そちらで勝手に処理すればいい。事後報告さえしてくれれば、あとの補充はこちらで――」
「当麻です。当麻副隊長が、離脱しました」
「とう――そうか、当麻か。それならば報告の必要があるな。しかし……冬島隊長は無事なのか。他の者は?」
「皆、無事です」
「ということは、最悪の事態は免れたということだな。……止められそうか? できればこちら側に引き戻せるのがベストなのだがな」
「どうでしょうか。正直、話し合いに応じてくれそうな雰囲気でもなかったものですから。あまり過度な期待を持たれても困るのですが」
「だろうな。しかし、当麻の手綱が切れたとなれば、任務と同等かそれ以上に重大な案件となる。対応については協議の必要がありそうだが……」
「ちょっと失礼しますね、隊長。どうも、長官。お二人とも、何をそんなに恐れているんですか? ただ一人の男が任務を放棄して、その任務を妨害しているんです。やることは一つでしょう? 殺せばいいんです。今ここで、長官が命令してくれればいい。元副隊長の当麻を暗殺せよ、ってね。それで解決だ」
「……君は、たしか秋津くんだったね。冬島隊長、もしや話していないのか?」
「ええ。当麻自身が過去の話を嫌っていますし、情報統制によってその過去は、より過去の話になり、今となっては誰も信用していない都市伝説の噂程度になっていますから」
「そうか……ならば、今回の件――任務と当麻のことは冬島隊長に一任する。そっちで手に負えないときにはもう一度連絡しろ。特に当麻については別動隊を待機させておく。現場の状況はわからないが……もしも任務と当麻が関わっているのなら、どちらも解決しろ。そのための亡霊だろう。任せたぞ、冬島隊長」
「はい、お任せください」
「じゃあ――ああ、それからいい機会だ。当麻について説明してやれ」
「……はい」
「それで? 隊長。副長の過去の話とは?」
「少し長くなるから、まずはセーフハウスで体制を立て直す。だが、一先ず言えるのは――当麻が本気で怒っていれば、今の俺たちはここにいなかっただろうな」
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