42.答え

ガラスケースには、木の棒きれが飾られていた。

「これが、当博物館最後の展示品になります」

そうか。

なんだか、あっという間だった。

最後の一つだというそれは、とても華やかには見えない。

人工物なのかも怪しかった。

そこら辺の木の枝を適当に拾ってきて飾っただけのようにも見える。

「この木はなんなんだ?」

「“原罪の木”と呼ばれています。人という種が、初めて、人を殺めた『兵器』です」

「本物?」

「もちろん。歴史を感じますねー」

古ぼけた木の棒は、何も語らない。

ふと思う。

歴史。

歴史というものに、憧れていた。

遠く届かない過去への望郷心。

それは決して満たされない。

時計は過去へは進まなかった。

それは、ただ一つ、どんな技術でも成し得なかったこの銀河の『答え』だった。

物事には始まりがあって。

終わりがある。

「なあ」

「はい。なんでしょうか」

「お願いがあるんだ」

「なんなりと」

柔らかく少女が微笑む。

何度も何度も繰り返した通りに。

「忘れないでほしい」

「……?それは、お客様を、という意味でしょうか」

「いや」

違う――こともないか。

「今日という日を。今までの何もかもを。忘れないでほしい。いつか、また、誰かがここに来たら、話の種になるように」

少女は胸を張って、誇らしげな笑顔で答えた。

「もちろんです。それがわたしの仕事ですから」

博物館を出る。

砂の惑星の夜は、静かで冷たかった。

澄んだ大気の中で、幾憶の星が瞬いていた。

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