38.残影

8メートルほどの、こじんまりしたロボットが展示室の隅に置かれていた。

「こいつは?」

「“残影”は、ホログラムを搭載した特殊な機体です。実際は10メートル級ロボットとして運用されました」

「『実際は』って?」

少女が指を鳴らす。

機体の両肩からホログラムが展開され、黒い靄のように機体を覆い隠していく。

「このように、機体全体をホログラムで覆うことにより、実際の機体全長より一回り大きく見えるよう欺瞞して運用されました。このアドバンテージは些細なものですが無視できず、相対した敵機が距離感がうまく掴めないため本機の生存率の上昇に貢献しました」

ゆらゆらと揺れる“残影”は、さながら幽霊のようだった。

戦場で会ったら怪談話のネタにしていただろう。

「他にも、周囲のセンサーを少しだけ狂わせる能力を持っており、戦場でこの機体の正確な位置を把握することは困難でした。『何かがどこかに居るのは分かるが、正確な位置も姿も分からない』というこの機体の特性は、戦場という極限状態で想定されていた以上の戦果をあげました」

そのストレスは尋常ではなさそうだ。

部屋に虫が出て物陰に消えたのを何千倍にも濃くしたような感じだろうか。

あるいは、暗闇で何かに襲われるような。

「奇襲から護衛まで様々な用途に使われた傑作機ですが、機体性能そのものは耐久性に欠けた玄人向けの機体でした。欺瞞が解けてしまえば案山子同然だったとか」

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