第159話 女は度胸と人情、そしてやる気
「「「女?!」」」
メネウ、トット、そしてラルフの合唱になった。モフセンはどこ吹く風である。
きっと、見た瞬間から分かっていたのだろう。人生経験の差をまざまざと思い知らされた気分だ。
「俺が女じゃおかしーのかよ」
「いや、おかしくはないけど……俺ら男ばっかりだよ?! いいの?!」
「女はなぁ、度胸と人情、そしてやる気が無いとこの世界じゃやってけないんだよ!」
メネウはハッとした。この世界の女性は、男性より長生きできない。体も弱い、出産をしたらかなり寿命が縮む。
レオはまだ15歳程に見える。研究所に入ったのはもっと前だろう。その為に物凄い努力をしたに違いない。そして、レオには高い魔力という才能もあった。
ラルフのスキルが剣士寄りの物ばかりなように、特訓して手に入れた力なのかもしれない。
そうすると、ここまで敵意むき出しになった理由も分かる。そして、付いて来たいと言ったのは、何もトットが研究所で失敗をやらかせばいい、という気持ちだったわけじゃないのだろう。
自分より成果を出す旅人がいる。ならば、その成果をどうやって出したのか、自分の目で見て、肌で感じて学びたい。そういう気持ちから出た言葉だ。
この世界、とレオが言ったのは研究職の事かもしれない。それでもメネウにとっては、広い意味でこの世界、であり、そしてそれは決して間違いではない事なのだ。
この世界で出会った女性は若くして数多の経験を積んでいたり、自分の職業に誇りを持っている人ばかりだ。そして大成したのがリングという例だろう。
レオはもしかしたら、第二のリングになるかもしれない存在だ。
「……分かった。レオ、君が一緒に来るのを歓迎するよ。この国に居る間だけね。でも、トットとの約束は絶対に守って。俺達の言う事を聞く事。絶対だよ? できる?」
「あぁ、絶対にその約束は守る! 女に二言はねぇ!」
「トットも、それでいい?」
メネウは慎重にレオとトットに問いかけた。思ったより面倒な物を押し付けられたな、と思ったラルフが軽くこめかみを抑えたが、特に口出しはしない。
もうメネウは決めてしまった。ならば、何を言っても無駄だ。
そしてそれを知っているのはトットも同じである。
小さく笑うと、はい、と返事をした。そして職員さんに向き直り、よろしくお願いします、と頭を下げる。
「そうと決まったら旅支度をして、レオ。俺たちは街の門で待ってる。商業ギルドの幌馬車の所に居るから」
「分かった!」
レオは顔を輝かせると、一目散に部屋を出て行った。自室で私物をまとめるのだろう。
「すみません、お世話をお掛けします」
「いえ。……あの、トットは錬金術師です。トットがアトリエを造ったら、そこは覗かないでもらえますか?」
「それはもちろん。お約束します」
「ありがとうございます。トットをよろしくお願いします」
メネウはそう言って深々と頭を下げた。
レオの支度はまだ暫く掛かるだろう。旅をするのも初めての筈だ。
メネウたちは言った通り研究所を後にすると、商業ギルドに預けた馬車を街道に出して待った。
地図を見てマギカルジアの地形を確認する。他に3つの街があるが、そのうちの2つが離島にあるようだ。たぶん、海沿いの方に行けば船が出ているのだろう。
一先ずはミアモレに帰り、多少の支度をしてミアモレを拠点に動けばいいだろう。帰りにトットを拾っていけばいい。
この国ではあまり魔物を見かけないが、そういう部分を含めて一度冒険者ギルドに顔を出すのもいいかもしれない。レオが体験したい事をさせてやろう、とメネウは頭を切り替えていた。
トットとは違うのだ。退魔薬を自作して身を護る事も、錬金術の応用で魔物を解体する事も出来ない。
まずはレオのできる事を知らなければ、とメネウは思っていた。
「二人なら絶対言わないと思うんだけどさ……」
そこまで考えて、メネウはラルフとモフセンに言い難そうに言葉をかけた。
「なんだ?」
「なんじゃ?」
気まずそうに頭をかきながら、メネウは言った。
「絶対にトットと比べないであげてね。こんなこともできないのかー、とか、そんなんじゃだめだー、とか……言わないよね、ごめん、変な事言った!」
自分の事を受け容れてくれている二人である。もちろん言う筈もないのだが、いまいちこの世界での女性の立ち位置というものを把握しきれていない。
杞憂ならばいい。だが、そこは転生者であるメネウと、ラルフとモフセンの間に横たわる大きな価値観の違いがある、と直感的に思ったのだ。
「言わん。……お前と旅をしている間に出会った女というものは、すべからく強いものだ」
「儂も、あの嬢ちゃんにはそういう事は言えんのう。メネウ、心配せんでもいい。この世界は女という性には厳しい世界じゃが、だからこそ輝くものがあるんじゃ」
二人の言葉に、メネウはほっと息を吐いた。気を悪くするでもなく、女性……レオという一個人を尊重すると言ってくれた。
一緒に旅をするのだから、こんなに心強い事は無い。
「悪い! 遅くなった!」
そこに、息せき切ってレオが走って来た。背中には大きなバックパックを抱えている。
改造してある幌馬車の中が役立ちそうな量の荷物である。
レオが仲間に加わった。
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