第133話 首都・ナダーア

「ふぁー、でっけぇー……」


 農業大国ナダーアの首都・ナダーアに着いて、メネウが最初に発した言葉がこれだった。


 ナダーアの関所は三つの門に分けられており、一つはメネウたちのような冒険者や旅人が通る門、一つは国内で生産された農作物や魚介類を納品する農民や漁師に向けた門、一つは交易用の他国の品を受け入れたり輸出する門に分かれていた。


 関所を潜るとナダーアの大通りに面した広場がある。広場に面して、商人ギルド、冒険者ギルド、道を挟んで医療ギルドと農業ギルドがあり、その真ん中の道が遠く城まで続いている。


 城は山の裾野に沿って建っており、かなりの距離があるにも関わらずはっきりと形が見て取れる。それ程に巨大だった。


(ここの国に息吹きかけてんだよなぁ風の一家……王城には近付かないでおこう。何かのきっかけで鉢合わせたら嫌だし)


 王城に近付かなくとも宿は取れるし、商人ギルドに馬車を預けられる。何ら問題なく旅は続けられるはずだ。


 まずは商人ギルドに出向いて馬車を預け、馬の世話も頼んでしまう。ついでに飯のうまい宿を訊ねると、快く場所を教えてもらえた。リングの威光はここでも有効なようだ。


 荷馬車が多く通るからか、道は土を踏み固めただけの町だが、何せ規模がでかい。大通りには屋台が所狭しと並んでおり、メネウたちは一本外れた道に入って宿屋を探した。


 大通りから外れてしまえば人の往来もそこまで多くない。そんな少し寂れたところにあったのが、紹介された宿屋だった。木造の二階建てで、小ざっぱりとした外観が気に入った。看板もドアの上に小さく付いているだけだ。


 ダンジョン攻略のためにも長めに滞在を決めていたため、4人で3部屋を取り、金貨を一枚支払った。メネウとラルフで一部屋、トットは許可を取ってアトリエを作る(のに加えてヴァルさんのベッドを設置する)ので一部屋、モフセンとカノンで一部屋である。


 長期滞在は歓迎されているらしく、二階の続き部屋を用意してくれた。部屋と部屋は繋がってはいないが、これなら集まって話し合いもしやすいのでありがたい。部屋ごとにトイレや浴室が付いているのは、この町の交易が盛んな証だろう。ちょっとした商人が泊まるような、少し広めの部屋だった。


 メネウが荷物を一手に引き受けているので特に荷下ろしなどはしなかったが、部屋を見て落ち着いた頃にモフセンの部屋に集まった。


 スタンとカノンが転がるようにして遊んでるのを尻目に、今後の予定を決めていく。


「まずは冒険者ギルドに行くのがいいんじゃないかのう。どれだけの旅程になるか分からんと、買い出しもできんからな」


「そうだね。肉はまだまだたくさんあるし、魚も買い込んであるから……野菜かなぁ買うとしたら」


「山登りですよね、何かほかに必要なものはあるんでしょうか?」


「モフセンとトットは杖が必要じゃないか? 道程によるが急斜面があると登りづらいだろう」


「ならロープも買って行こうか。見た感じ禿山だし薪木も……あ、ヴァルさんに出して貰えばいいのか」


「うむ、問題ないぞ。一本薪木を寄越してくれれば、複製して出してやろう」


 じゃあ準備はこれで、となって、まずは冒険者ギルドに顔出しに行くことになった。


 ランクはAまで上げてもらっているので問題ないはずだ。もしセティに会う事があったら、彼女の分のプレートも渡せばいい。


(まぁそう簡単に再会できるかはわからな……いたーー?!)


 冒険者ギルドのドアを開けて中に入ると、ちょうど昼飯にしていたセティとばっちり視線があった。食べながらだったので彼女が片手を挙げるのを見て、そのテーブルにメネウたちも向かった。


「案外早い再会になったね。元気してたかい? って聞く程間が空いてないのが笑い種だけど」


 エールを飲み干したセティが笑いながら話しかけてくる。彼女は徒歩だったはずだが、乗り合い馬車に乗ってナダーアに来たらしい。ラムステリスに寄った分、メネウたちよりも早く着いたようだった。


「あ、セティ。これ、ジュプノのギルマスから預かって来たよ。Aランクだってさ」


 彼女は元々Bランク冒険者だったが、やはりAランクに上がるには多少苦労していたらしい。喜んでプレートを付け替えた。


「ありがたいね! この辺はまだいいけど、辺境のダンジョンほどランクが高く無いと入れなかったりするからね。これでアタイも多少は楽できるってもんさ」


「Aランクのパーティーには入り難かったりするのか?」


 珍しくラルフが興味を持って話しかけた。元々騎士だったからか、冒険者としての知識は殆どないのもあるだろう。


「するねぇ。大体Aランクのパーティーってのは元々低ランクの時から一緒にやって来た仲間って事が多いからね。ダンジョンの危険性から多人数で挑まなきゃいけないけど、態々そこに外部の不穏分子を入れる奴はそういないさね」


「セティが行くダンジョン全部には着いていけないけど、古のダンジョンに挑むんなら俺らがいるから一緒に行こう。知らない仲でもないしさ」


 メネウがそう言った途端、周りの声が急に消えた。酒を飲んでいた冒険者の一人が、恐る恐るというていで話しかけて来た。


「古のダンジョンって……あんたら、トロメライに挑む気なのか……?」


 メネウにはどうもこの台詞は「自殺志願者か?」と聞こえた。隣を見ると皆そう聞こえたらしい。目を丸くして頷いた。


「やめとけやめとけ! ナディア山は今めちゃくちゃ危ねぇんだ!」


「キメラがそこら辺をうろうろしてんだよ。ダンジョンに辿り着く前に死ぬぞ」


 口々に冒険者が語るナディア山の現状は、相当危険らしい。


 キメラが束になってかかってきても怯むメネウでは無いが、問題はトロメライに挑む許可が出るかどうかである。


 一通り話を聞いてから、セティと一緒に窓口へと向かった。とりあえずはギルドの見解を聞くのが先決である。


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