第429話 駆け引き

 もちろんこれは俺が用意していたシナリオだった。


 衆目監視のスポーツチャンバラの舞台にケンセーを引きずり出し、剣技に特化した戦闘系最強S級チート『剣聖』のチート能力を見極めようという作戦である。


 体育館掃除が早くに終わって、空いた時間に何かしようってなるのは予想がついていたからな。

 こんなチャンスを逃す手はない。

 ここでシロクロはっきり勝負をつけようと思ったのだった。


「あ、私もスポーツチャンバラやりたいかも」

「セーヤくんがやりたいならわたしもやりたーい」

「はいはい、私も私もー!」

「私もせーやくんとスポチャンするー!」

「さんせー!」

「セーヤくんにブタれたい……」


 なんか最後に変なのが聞こえたけど、よし、計画通りに一気に流れを呼び込んだぞ――、


「えー、でもでも勝手に用具を使ったら怒られるでしょ? ボールくらいならいいだろうけどさ」

 ――だったんだけど、その流れを他でもないケンセーが止めにかかった。


「あ、そっかー」

「だよね……」

「勝手に使うのはまずいかぁ……」


 くっ、いい流れができかけたのを一瞬で止められてしまった。

 さすがケンセー、いきなりの不意打ち展開だったのに、さりげなく上手いこと言って逃げやがったな。


 でもこれでますます怪しくなったぞ。

 用具をちょっと使うくらい、そこまでして止めるほどのもんでもないはずだ。


 なによりケンセーが『剣聖』ならスポーツチャンバラは無双できる大得意分野、逃げる必要はないわけで。


 よし、どうにかしてもう一度流れを取り戻すんだ――!

 俺が決意を新たにしていると、


「ふっふーん、それなら抜かりなし。時間が余るのは分かってたから、ちゃんと用具の使用申請は出しておきました」


 そう言ってミロノヴィーナスちゃんは1枚のA4ペーパーを取り出すと、水戸の黄門様の印籠いんろうのごとく、ドヤッっとみんなに見せつけた。


 そこに書いてあったのは「体育館用具申請:スポーツチャンバラ一式」の一文!


「おおっ、さすがはミロノヴィーナスちゃん。手際の良さは文句なしにクラス一番だな!」


 まさに会心のアシスト。

 俺が頭をなでなでしてあげると、ミロノヴィーナスちゃんは嬉しそうに目を細めた。


「あ、一人だけずるーい!」

「わたしもわたしもー!」

「せーやくん撫でて撫でてー」


 それを見てわっと盛り上がるチートっ子たち。


「じゃあさ、優勝景品をセーヤくんのなでなでにしない?」

「えー? でもそれだとケンセーが絶対勝っちゃうじゃん。あの子、剣持ったら無敵でしょ?」


「じゃあ公平を期すために、私は不参加でいいよ――」

 ケンセーがまたもやうまくいこと言って逃げようとしたのを、俺はここが勝負どころと一気につぶしにかかった。


「勝ち負けじゃなく、一生懸命楽しくやった子みんなになでなでをするよ。それなら公平でしょ? どうかな?」


「「「「さんせー!」」」」


「あ……」

 ケンセーが一瞬「まずい」って顔をしたような気がした。

 多分それは俺の気のせいってわけじゃないはずだ。


 ふぅ……これで舞台は整った。

 今度こそ本当にケリをつけるとしようか。


「じゃあ決定だね。セーヤくんなでなで杯、2年S組スポーツチャンバラ大会スタート!」


 最後に、クラスを仕切るミロノヴィーナスちゃんがリーダーらしく議論を締めくくって。

 こうして。

 2年S組スポーツチャンバラ大会が――そしてケンセーの正体を暴くためのラストミッションが――幕を開けたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る