第367話 最後に言い残すことはあるか?

「そういうわけだ《剣の魔将》グレン。最後に言い残すことはあるか?」


 俺は精霊剣クサナギを突き付けながら、遺言があるかどうか問いかけた。


「……」


「老いたとはいえ、それでもアンタは強すぎる。おとなしく暗黒大陸にひきこもってるってんなら、干渉する気はさらさらなかったけど。でもティモテを狙ってくる以上、悪いけどアンタを生かしておくことはできない」


 俺個人としてはグレンみたいな爺さんの生き死にには微塵も興味がないんだけれど、ティモテの命がかかってるとなれば話は別だ。

 なにをどうしても見逃すなんて選択肢はありえなかった。


「……」


「だんまりか……ま、無いなら無いで別にいいさ。特に聞きたかったわけでもないし」


 遺言を聞いたのは、ただの温情に過ぎない。


「なんにせよアンタの企みはここでついえた。妖魔の負けだ。この先たとえ魔王が復活しても、ティモテの元に人族は一致団結して戦うだろう。戦火が広がるようなら俺だって容赦はしない。俺は、俺の住むこの世界と平和な日常を守る、全力でな」


 俺のモテモテハーレム異世界生活を邪魔する奴は絶対に許さない、絶対にだ!


主様ぬしさまが出陣するのであれば、むろんわらわも付き従うのじゃ。主様ぬしさまの敵はすなわちわらわの敵じゃからの。なんなら後顧の憂いがなきよう、暗黒大陸ごと海に沈めてもよいのじゃ」


 そして《神焉竜しんえんりゅう》が笑えない冗談を言った。


 なにが笑えないって、万が一にでもその気になったら本気で大陸ごと沈めちゃいそうなのが心の底から怖いです。


 ――と、


「……《神滅覇王しんめつはおう》マナシロ・セーヤ殿に、折り入って頼みがある」


 傷口から手を放して背筋を伸ばし、居住まいを正したグレンが、やたらと丁寧な口調で語りかけてきた。


「なんだよ改まって。別に普通の話し方でかまわないぜ?」


「そうか。心遣い、痛み入る」


「で、今更になって命乞いでもしたくなったのか? さっきも言ったが、悪いがアンタのことは――」


「すでに老い先短いわが身。命なぞ、わずかばかりも惜しいとは思うてはおらぬよ。欲しいというなら、いくらでもくれてやろう」


「それはまた、殊勝な心掛けだな」


 そんな風に軽く聞き流した俺だったんだけど――、


「――だから心して聞くのだマナシロ・セーヤ。その少女は身体のうちに《魔神》を抱えておる。よって《魔神》が覚醒をする前に殺さねばならぬ」


 ――グレンから返ってきたのは、そんな突拍子もないセリフだった。


「……は? いきなりなに言ってんだ?」

 あまりに想定外過ぎて、思わず苦笑してしまう。


「今ならまだかろうじて間に合うのだ。大切な日常を守りたいのなら、世界を救うというのなら、そこをどくのだマナシロ・セーヤ」

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