第364話 ああもう! もやもやする!

 ギン、キン、ギャン、ギリン!

 ギギャン、ギャギギリン――!


 SS級が持つ神に比肩する力『固有神聖』。


 『固有神聖』《鬼力豪放きりょくごうほう》によって若返り、圧倒的なパワーアップを遂げたグレンの猛攻を、俺は防御に専念することでどうにかこうにかしのいでいた。


「どうしたマナシロ・セーヤ? さっきから受けてばかりではないか。まさか《神滅覇王しんめつはおう》を顕現させずに戦うつもりか?」


「うるせぇ、どんな風にやろうが俺の勝手だっつーの」


「舐められたものだな――カァッ!」


 気合いとともに上段から振り下ろされた大上段からの真っ向唐竹割を、


「おおおおっっ!!」

 柄から離した左手を剣の腹に添え、俺は身体の正面で受け止めた――!


 さらにグレンが打ち下ろした勢いを利用して、


「うおりゃぁっ!」


 グレンを引き込むように俺は後ろに倒れこむと、鳩尾みぞおちをけり上げながら柔道で言う巴投げの要領でグレンの身体を跳ね飛ばす――!


 相手の力を利用して投げることに特化したスポコン系S級チート『ヤワラちゃん』による、流れるようなカウンター技だ。


 S級とSS級。

 決して越えられない高すぎる壁。


 けどな――!


「要所要所のピンポイントでなら、S級チートが格上のSS級にも決まることは、《神焉竜しんえんりゅう》と戦った時に既に経験済みだ――!」


「こほっ、げほっ……。受けると見せかけて、勢いを利用しての返し技とはの。急所を蹴りつけ跳ね飛ばす一連の動きは、実に洗練されていて無駄がない。高度な剣の技だけでなく奇妙な体術まで会得しておるとは……その若さで多芸なものだ」


「《神滅覇王しんめつはおう》で力押しするだけだとでも思ったか?」


「……なるほど、先ほどの発言は訂正しよう。さすがだな、マナシロ・セーヤ」


 ――とかなんとか偉そうに言ったものの、だ。

 《神滅覇王しんめつはおう》を使わないのには、実は理由があって――。


 なんかこう、やけにエンジンのかかりが悪いというか、《神滅覇王しんめつはおう》が俺の呼びかけに答えようとしないのだ。


 心を震わせ湧き上がる溢れんばかりの黄金の力が、今の俺にはまったく感じられないのだった。


 力を使えなくなったわけではないはずだ。


 俺と《神滅覇王しんめつはおう》が繋がっていることは、なんとなくだけど実感として俺の中にあった。


 だけど《神滅覇王しんめつはおう》が、ここはまだ自分の出番ではないとでも言いたいように――まるで何かを待っているように――沈黙したまま腰をあげようとしないのだ。


 ああもう!

 もやもやする!


 なんていうか使えそうで使えない、喉の奥に魚の小骨が引っ掛かったような、そんなもどかしい状況なのだった。


「力を温存しているのか? それとも使えないのか? まあよい。どちらにせよ、容赦はせぬぞ――!」

「へっ、それはこっちのセリフだ!」 


 回避系S級チート『質量を持った残像』で幻惑し。

 ラブコメ系S級チート『なぜかそこにあるバナナの皮』によって、不意に体勢を崩させ。

 スポコン系S級チート『音速の貴公子アイルトン・セナ』で一気に懐に飛び込む――。


「SS級との戦いも、これだけ続くとさすがに慣れてきたからな!」


 さらには、対「鬼」専用の限定チート――鬼退治系S級チート『桃太郎』によって俺の全スペックが底上げされているのだ。


 多彩なチートを駆使しながら、俺は『精霊融合エレメンタル・フュージョン』モードで互角に近い戦いを繰り広げていった。


 いくらグレンがSS級で『固有神聖』を発現していたとしても、同じSS級である《精霊神竜》の力を使っている今の俺なら、S級チートと組み合わせればそう一方的に負けはしない――!

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