第353話 ワン・チーム

「そうだ。ちなみになんだけどさ?」

 俺の前置きに、


「なんでしょー」

 巫女エルフちゃんがのほほーんと答える。


「あの鬼門遁行きもんとんこうって妨害できそうだったりする? あれはグレンの奥の手だと思うんだ。だからあれさえ封じれば、今度こそ確実にケリをつけられると思うんだけど」


 完全にダメ元で聞いてみたんだけれど、


「《神焉竜しんえんりゅう》様から解析した術式を教えてもらいましたので、ある程度は封じることが可能だと思いますー」


 さらっと言ってのけた巫女エルフちゃん、マジ半端ないです。


主様ぬしさま彼奴きゃつめの移動術式は完全に解析済みなのじゃ。あれは世界の揺らぎを利用した虚数量子的不確定存在の――」


「おっけーわかった、その話は長くなりそうだから後日にしよう!!」


 俺は理解を早々に放棄して、とりあえず得られる結果だけを受け入れることにした。

 もはや文系あがりには、何を言っているか理解できるとは到底思えませんので!


 そしてもう一つ、気になることと言えば、


「グレンが残した言葉、あれはどういう意味なんだろうな?」


「ティモテさんを狙うのが、先代魔王との盟約……うーん、なんなんでしょう……」

 さすがのウヅキ先生も、たったこれだけの情報では推論の立てようもないようで、うんうん言いながら考え込んでいる。


「そもそもの話なんだけどさ。その先代魔王ってのはどんな奴だったんだ?」


「先代魔王はダークエルフだったと言われています」


「ダークエルフ!!?? えっちで美人ぞろいだっていう、あのダークエルフ!?」


 『ダークエルフ』というワードに思わずガッツリ喰いついてしまった俺に、


「その、えっちかどうかは、分かりかねるんですが……美人かどうかで言えば、ダークエルフはエルフと同じく美しい容姿が特徴の種族だと言われています」


 少し困った顔をしながら――それもまた可愛いんだけど――いつものようにウヅキが説明をしてくれた。


「そうか、美人がいっぱいなのは間違いないのか……。あ、そうだ。エルフって言うからにはさ、やっぱり巫女エルフちゃんたちの親戚みたいな感じなのかな?」


 言いつつ、今度は巫女エルフちゃんに視線をやると、


「ダークエルフは大昔おーむかしにたもとを分かった種族なので、祖先が同じくらいでほとんど別種族ですねー。交流もまったくないですしー。むしろ陣営的には敵?」


 巫女エルフちゃん特有ののほほーんとした、しかし非常に明快でわかりやすい答えが返ってきた。


 この2人、説明上手という点では、ウヅキと巫女エルフちゃんは超ハイレベルで甲乙つけがたいな。


「でも。そうだよな。ダークエルフは妖魔側だもんな、そりゃ仲良くはないか。それで、び、美人だったのかな……?」


「えっと、先代魔王が、ですか?」

「うんうん」


「その……言いにくいんですが、先代魔王は男なんです……」


 ウヅキがちょっと申し訳なさそうに言った。


「あっ、そうなんだ……」

 そしてその一言で、俺は急激に興味を失ってしまったよ。


 そりゃまぁ当然、男のダークエルフだっているよね。


 でも夢がないですよ、これは。

 とてもプロの仕事とは思えませんね。


 ま、タイミングよくオチもついたことだし、


「よし……これだけ丸裸にすれば十分だな」


 確認すべきことは全て確認し終えた。


 俺はチームリーダーとして、作戦会議の最後のとりまとめに入る。


「俺たちはみんなで協力して戦ってる。言ってみればワン・チームだ。一人ぼっちでこそこそ動いているグレンに負けるわけがない――」


「はいっ!」

「まったくなのじゃ」

「勝ちましょー」

「わたしのために尽力していただき、本当にありがとうございます」


「……はっ!? だから寝てないってば!? うとうとしてただけだし!」

「うとうとって、それ寝てるじゃん……」


 ほんと精霊さんは、作戦会議とか真面目な話には興味がないんだな……むしろなぜここにいる的な……。


「それはそれとして。いつまでも襲撃におびえていちゃ、ティモテだって気が滅入るだろう。今度はこっちから仕掛ける。土足で俺たちの平穏モテモテハーレムに踏み入ってきやがって。明日にでもケリをつけてやるから、首を洗って待っていろよ――!」

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