第320話 未来の教皇ティモテ
「それと立場的なものからも言わせてもらえば――」
ああ、今までのはナイア個人の話で、ここからは貴族――為政者としての立場ってことか。
「帝国臣民の8割は――熱心かなんちゃってかは別として――マリア=セレシア教会の信徒だからね。教会の安定と繁栄は、すなわち帝国の安定と繁栄につながるというわけだ」
「そういやそんなこと言ってたな……にしても8割はすごいな……」
ここまでくると逆に残りの信じてない2割、この内訳がなんなのか知りたい気もするよ。
無宗教とか土着信仰、新興宗教とかなんだろうけど。
なんて無警戒に素直に感心していた時だった――ナイアから爆弾発言が飛び出したのは。
「――であれば、帝国に剣と忠誠を捧げた騎士・貴族としては、将来の教皇候補でもあるティモテと
「え? なんだって?」
突拍子もないナイアの発言に思わず脊髄反射してしまい――結果、ディスペル系S級チート『え? なんだって?』が暴発した。
「将来の教皇候補でもあるティモテと
まったく意図せず因果を断絶して、やり直してしまったんだけど――いやでも仕方ないでしょ、これ?
「はい……? 将来の……? 教皇候補……? え……? ティモテが……?」
思わず振り返ってティモテを見ちゃった俺に、
「それはその。気が付いたらいつの間にか、そんな大げさなことになってしまってまして……」
今までで一番小さく縮こまって恐縮しちゃっているティモテ。
「大袈裟ってこともないと思うけどね。今回だって東の辺境に教会管区が新設されるにあたって、近々その大司教を任されると聞いたけど?」
「それはあくまで将来的な話ですし、そもそもこの話はまだごくごく一部の関係者しか知らないはずですが……」
「そこはそれ、周囲はどうしたって慌ただしくなるし、なにより人の口に戸は立てられないものさ」
ニヤリと、わざと悪そうな顔を作って笑うナイア。
俺としては、こんな話を俺やクリスさんがいるところでしてしまっていいものかと思ったんだけど、
「ああそっか。つまりこの話は遅かれ早かれ広まっちゃう話ってことか……」
「ま、そういうこと」
「ところでさ、教皇って言ったら教会のトップだよな? ティモテはまず大司教になるみたいだけど、大司教ってのも偉いのか?」
司祭とか司教とか神官とか似たような言葉があるけどさ?
ごった煮いいとこどりな宗教観の日本人にとっては、その辺ふんわりとしかわからないんだよな。
「大司教は、今回で言うと東の辺境の全教会の統括官、ナンバーワンってことだから、まぁ偉いか偉くないかで言えば偉いね。少なくとも十代で大司教を任されるのはティモテが初めてじゃないかな?」
「おおぉぉっ、ティモテすっげー!!」
「そして大司教になることは、すなわち将来の教皇の候補になるということと同義なのさ」
「おおぉぉっ、マジすっげー!! いやでもほんと納得だよ。あれだけ熱心にお祈りするティモテだ、きっと素晴らしい教皇になれるよ!」
「至らぬ身ではありますが、期待された以上はその期待に応えられるよう誠心誠意がんばります」
実はすごい女の子なのに、最後まで控えめなティモテだったんだけど、その表情には決意と、そして悲壮感のようなものが感じられるような気が、なぜか俺にはしたのだった――。
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