第311話 聖少女邂逅

 建築作業員や資材を運ぶ人・馬車がひっきりなしに行きかう中、教会を探してきょろきょろしながら歩いていくと――、


「あ、あれじゃない? 屋根の上に十字架が立ってるし!」

 精霊さんの指さした先を見てみると、ちょっとおしゃれな感じの建物が目についた。


 十字架っていうとキリスト教がまず一番に思い浮かぶんだけど、


「キリスト教が有名すぎるだけで、実際は世界中で見られる汎用的な意匠だから、この異世界で教会に使われてても何ら不思議はないよな」


 収斂しゅうれん進化――遠く離れた地域の生物や文明が、同じような似通った姿かたち・様式・文化をとることはいろんな分野で広く知られている。


「へぇー、なかなか素敵な建物じゃない……そーだ、よーし! ハリツケ、どやぁ!」

 精霊さんがわざわざ屋根の上の十字架まで飛んでいって、ハリツケされてる感じに両手を広げるとかいうアホなことをやりはじめた。


「アンタたちの中で罪を犯したことのないヤツだけが、アタシに石を投げてもいいんだかんねっ!」


 精霊さんはほんと人生楽しそうで何よりだね。

 俺は不敬にも信仰の象徴たる十字架で遊んでいる精霊さんを、とりあえずは放っておくことにして、


「教会の中は見れるのかな? ってあれ? 鍵かかってないじゃん……」

 試しに入り口のドアノブを回してみたら、なんとあっさりと回っちゃったのだ。


「できたばっかりで管理者も来ていないって聞いてたんだけど……なら当然鍵がかかっているよな? ってことは中に誰かいるのか……?」


 もしや良からぬ連中が侵入しているのでは?

 なんとなく好奇心――おっと正義感に駆られた俺が、そっと扉を押し開けて様子を窺うように中を覗き込むと、そこには――、


「~~~~~~~~~~」


 両膝をつきこうべを垂れて、小さな声で何事か呟きながら一心不乱に祈りをささげる一人の少女がいたのだった。


「~~~~~~~~~~」


 こちらに背を向け、全てを捧げるようにひたすらに神に祈る敬虔に過ぎるその姿は、まるで話に聞いた聖母マリア=セレシアその人のようで――。


「――――」

 その厳粛で静謐せいひつな光景を前に、俺は言葉を失ったまま、祈りをささげる聖少女の美しい姿に見とれてしまったのだった。


 そのせいで。

 ドアを中途で止めていた手が意図せずドアノブから離れてしまって――、


 キィ――っ。


 蝶つがいの鳴る音がして、ドアが大きく開いてしまう。


「――っ」

 突然の物音に、少女は祈りを中断するとハッとこちらを振り向いた。


「あ、わりぃ……邪魔するつもりも驚かせるつもりもなかったんだ。その、覗き見してたとかでもなくてだな……誰もいないはずなのに鍵が開いてたから気になって見てみたら、思わず見とれてしまったっていうか――」


 こちらを見つめながらすっと立ち上がった少女を見て、俺は状況説明(というか言い訳)を始めたんだけれど――、


「ご、ごくり……」

 その途中で俺は思わず喉を鳴らしてしまった。


 というのも、だ。


 少女の服装は、白と黒をベースにところどころ金色のラインが入ったシスター服だったんだけれど、


「く――っ」

 それがですね!


 ものすっごくえちえちだったんだよ!!

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