第300話 巻末
――以上が、後の世に『慈愛の聖母』と呼ばれ、大陸中でその名を語られることになった聖母マリア=セレシアの、その若き頃の伝説的エピソードを一部抜粋したものである。
時に優しく人を助け、時に厳しく既得権益や社会を断じてみせる。
数々の奇跡を起こし、社会を、人の心までも変革してみせたその尊い行いの数々。
しかしてただの一度も見返りを求めなかったその清く美しい姿勢を言い表すのに、「聖母」という他に適切な言葉は見当たらないだろう。
しかしながら、彼女の為したことはあまりに膨大に過ぎる。
よってここでは到底語ることのできなかったその他あまたの偉業、奇跡、そして献身は、これはまた別の機会に語らせてもらうとしよう。
なにせ彼女のエピソードときたら夜空にまたたく星の数ほどありすぎて、本一冊などにはとうてい収まりきらないのだから――。
最後に、ここまで読み終えた信仰篤き諸兄に感謝の気持ちを捧げるとともに、信者諸兄に『慈愛の聖母』マリア=セレシアの聖なる祝福があらんことを切に願い、筆をおきたいと思う。
<記、マリア=セレシア教会、第89代教皇、レグナルト・アイリーン8世>
「あれウヅキ、まだ起きてたのか? ん? 何を読んでるんだ?」
「あ、セーヤさん。サーシャに借りた『聖母マリアの伝記:少女編』を読んでいたんです」
「聖母マリア? あー、歴史資料集にのってる?」
精霊さんとの知恵比べで出てきた、この世界の超有名な偉人だ。
「はい、そのマリアです」
「えーとたしか、なんか一夜にして金山を見つけたりしたんだよな」
「はい! マリアは凄いんです!」
「伝記ってからには、他にもいろんなエピソードが載ってるんだよな?」
「もちろんです。例えば、大親友の身分違いの恋を成就させるために八方手を尽くしてあげて、しかもしかも! その相手がなんと後に高貴な身分であることが分かり、最終的にシュヴァインシュタイガー帝国の皇帝に即位するお話とか」
「はー、それはまたすごいドラマチックな物語だな……」
「だから今でも恋する女の子はみんな、マリア=セレシアにお祈りするんですよ」
「ふむふむ、恋の女神ってわけだな。たしかに効果はありそうだ」
なんせ皇帝をゲットしちゃったんだもんな。
「使用人が割った盆栽を、自分が割ったことにして代わりに怒られたエピソードもカッコイイなって思いますし」
「オッケー、人としての格が違うってのはよく分かった……」
「それだけじゃないんですよ。マリアは自分の献身に何の見返りも求めないんです。すぐに次の人助けに奔走して。マリアは本当に素敵な人で、わたしの憧れの女性なんです」
「そっかぁ。どこの世界にも、聖人君子っているもんなんだな……」
俺も少しは爪の垢を煎じて飲まないとな……いやでもこれはもう、そういうレベルじゃない気がする……。
「ああでも、ウヅキも割とそういうところがあるっていうか、優しいし献身的だしいい線いってるんじゃないかと俺は思うけどな? 聖母ウヅキだ」
「えへへ、ありがとうございます。セーヤさんにそう言ってもらえると、うれしいです!」
ウヅキのにっこり満面笑顔が見れて、うんうん、俺もうれしいよ。
それにしても聖母マリアか。
素敵な女の子だったんだろうなぁ……。
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