第291話 言ってみればゴミクズの溜まり場訪問だよ?
「あー、めっちゃテン下げー……」
今日はわたし、貧民の支援を行うNPO(民間非営利組織:セレシア家が運営資金を寄付している)と一緒に貧しい農村部に足を運んでいたのだ。
「最近お父さまが忙しいからわたしが代わりをしないといけないとか……あーあ、ここ何にも無いし、ちょおつまんなーい!」
だってそうじゃん?
言ってみればここはゴミクズの溜まり場訪問だよ?
つまり今あたしは、ゴミ箱をのぞきこんでるようなもんだよ?
そんなことして楽しい人なんている?
いたら頭おかしいんじゃないの?
「こんなので半日潰れるなんて人生大損だよ……うん、決めた。ばっくれちゃお!」
わたしは専属メイドのアイリーン他、忠実なる使用人たちをひきつれて華麗にばっくれた。
ばっくれてやった。
「ま、最初にちょこっとだけ顔はだしたし? 最低限の義理は果たしたよね? あとは誰かうまいことやってくれるでしょ」
歯車が欠けても、世の中って意外とうまく回っていくものなのだよワトソン君。
ワトソン君が誰かは知らないんだけどね。
「早速あの山に登りましょう!」
わたしはお供を引き連れて探索を開始した。
べつに山を見たいってわけでもなかったんだけど、
「それでもまだ雄大な自然を見た方が、貧民の相手して人生浪費するより、よっぽどマシだからね!」
…………
……
そしてわたしたちは遭難した。
なんの比喩でもなくガチで遭難した。
急激に悪化した山の天気のせいで行動不能になったわたしたち一行(というか主にわたし)は、どうにかこうにか崩れかけた洞窟を見つけて雨やどりをしつつ、救助を待つことにしたのだった。
「うー、寒い……」
「ご安心くださいお嬢さま、すぐに助けが参りますよ」
「だめ、死ぬ……」
「お気を確かに! お嬢様はこんなところで野垂れ死ぬような人間ではありませんから!」
寒さと心細さに震えるわたしを、アイリーンがキュッと抱きしめてくれた。
このなんでもイエスな変態マゾメイド(最近は根負けして難癖つけるのも疲れてきた)も、こういう時はその決して折れない鋼メンタルが頼もしいね……。
「まぁ雨に打たれるよりはマシか……」
外は土砂降り。
雨宿りできなかったらマジで死んでたまであるよ……。
こうして。
わたしたち(主にわたし)は、貧民たちの救出部隊に助け出されるまで、においと寒さに必死に耐えていたのだった。
助けられた後、半泣きでぐったりとながら毛布にくるまれ、みじめに搬送されるわたしを尻目に、貧民たちは洞窟の奥をのぞきこんでなんかわいわい言っていた。
いやべつに貧民の心配とか要らないんだけどさ?
でもここまでスルーされるとそれはそれで悲しかったというか?
なんか貧民たちは、
「キンザン!」
「ゴールドマウンテン!」
とか言ってたような。
でもしんどかったからあんまし覚えてない。
あー。
ほんときょうはさいあくだよ……。
はやくお風呂入りたい……。
~~後日。
「マリア様、先日視察された農村部から感謝状が届いております」
執事のセバスが書状をもってやってきた。
「感謝状? わたしに?」
わたしの方が、助けてもらったことへ感謝状を書くんじゃなくて?
「なんでもマリア様のおかげで貧困から脱出できたと」
「はぁ……。それはまあ良かったですわね……?」
っていうか何の話?
それ以前に、わたし何かしましたっけ?
誰かと間違えてない?
「さらにはマリア様の黄金像をたて、視察に来られた日を特別記念日として毎年盛大に祝うとのことです」
「????」
……いったいなにが起こったの?
ねぇねぇそこのあなた。
ちょうどいいわ。
参考程度にちょっとあなたの意見を聞かせてくれないかしら?
後に「マリアの奇跡」「マリアの一夜金山」と呼ばれ、彼女を若くして聖女へと至らしめた一件。
これが歴史の闇に消え去った本当の顛末である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます