第243話 聖母マリア=セレシア

「ま、アタシだって鬼じゃないわ? 精霊だからね。……ってちょっと! ちゃんとツッコミなさいよ、ボケてるんだから」


「いや今そんな雰囲気じゃないだろ、空気読めよ……」


「まぁいいわ! つまりね、優しい精霊さんは出題範囲を絞ってあげるって言ってるの。聖母マリア=セレシアに関する問題に絞ってあげるわ!」


 胸を張って言う精霊さん――なんだけど、

「聖母マリア……って誰?」


「なんでアンタは聖母マリアも知らないのよ!? 未就学児童だって名前くらいは知ってるわよ!?」

「ふっ、俺は人とは違う男、麻奈志漏まなしろ誠也さ」


「なにバカを自慢してんの?」

「くっ、こいつめ……自分も大概のくせに……!」


 こんなおバカ精霊さんに素でバカとか言われちゃうと、地味にショックなんだけど。


「えっとですね、聖母マリア=セレシアは帝国臣民の8割が信仰するマリア=セレシア教会の初代にして唯一の聖女で、本当にすごい人なんですよ。セーヤさんも知ったらびっくりしちゃうんじゃないかと思います」


 そんなおバカな俺に救いの知識を差し伸べてくれたのは、またしても頼れる知恵袋ことウヅキだった。


「そこまで言われると興味が沸いてくるな。例えばどんなことをしたんだ?」


「そうですね、聖母マリアの一番有名なエピソードはやっぱりこれでしょうか。貧しい農村を訪れて、一夜にして金山を発掘してあげました」


「え? なんだって?」

 俺の言葉に反応して、因果を断絶してやり直すディスペル系S級チート『え? なんだって?』が発動した。


 いやでもこれ仕方ないでしょ?


「貧しい農村を訪れて、一夜にして金山を発掘してあげました」

 うん、2回聞いてももう一回聞き返しそうになるな……金山ってあれだろ、ゴールドが採れるマウンテンだろ?


「なんていうかその、いきなりぶっ飛んでるな……文脈が明らかにおかしいぞ? っていうかさすがにそれは嘘話だろ?」


「あはは、そう思っちゃうのも分かりますけど、これ史実なんです。歴史書なんかでは『マリアの奇跡』『マリアの一夜金山』って呼ばれてます」


「マリアすげー!」


「他にも新薬の開発に名を残したり、子供の衛生改善に大きく貢献したり、貧困問題を痛烈に社会に問いかけたり。あ、友人の留学条件を満たすために、全教科満点をとれたのに最後の教科だけ、わざと0点をとった、なんて友達思いのエピソードもあるんです」


「なんなのマリアさん。もはや多方面に凄すぎて理解不能なレベルだよ……」


「そ! つまり聖母マリアは帝国史に残る有名人ってわけ! そのマリアに関する問題なら、公明正大で公平な歴史問題でしょ?」


「ま、まぁ確かに……」


 この世界の聖母マリアなる人物は、日本史でいえば織田信長とか坂本竜馬とか、そう言うレベルの有名人なんだろう。

 そこからの問題となれば、歴史資料集がどうのは確かに関係ない気もする。


「じゃあ、そういうことで。いい加減そろそろ問題にいくわよ? 準備はいーい?」

「どうぞ!」


「こほん。では問題です。聖母マリアが貧困問題を解決するために、あえて孤児院で高級菓子を食べるという社会風刺をしました。その時に食べたお菓子はなんでしょう?」


 …………はい?


「おいこら、そんなもん知るわけねーだろ! つーかそんなことが歴史資料集には載ってんのかよ!?」

 思わずツッコんだわ。


「さすがに直接は載ってないわね? でも絵には描かれてるんだよね! そしてその絵は資料集にカラーで掲載されているってわけ! それを出してなにか問題でも?」


「ありまくりだ! ただでさえ使わない歴史資料集の、誰がそんな細かいとこまで見てんだよ!? どこが『公明正大で公平な歴史問題』だ!」


「勝負事ってのは戦う前から始まっている――ううん! 戦う前に、情報戦の段階で勝負は既に決しているのよ!」


 さっきトワに正論を言われて論破されたのが悔しかったのか、めっちゃドヤ顔で言ってのける精霊さん。


 くっ、こんな重箱の隅をつつくようなセコい、いやセコすぎる問題、さすがのウヅキだって――、


「チョコですね」

「そうそう、チョコよ――って、はいぃぃぃぃぃぃっっっっっっ!?」


 精霊さんが目をひん剥いて驚きの声を叫び放った――。

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