第204話 子供をしかるのに、大人が本気を出す必要はないからな――!

「おらおら、どうしたどうした!?」

「く――っ!」


 俺の攻撃がトワ=《スサノオ》をこれでもかと圧倒していく――!


 本来の《神滅覇王しんめつはおう》のスペックからすれば、今の戦闘力は借りてきた猫みたいなもんだ。

 速さも出力もなにもかもが全然ちっとも足りていない。


 《天岩戸アマノイワト》を強引にこじ開け、さらにATフィールドを維持するためにほとんどの力を使っていたからだ。

 おそらくそう長くはもたないだろう。


「――でもな、これだけで充分だ! 子供をしかるのに、大人が本気を出す必要はないからな――!」


 もはやトワ=《スサノオ》の攻撃は俺にかすりもせず。

 逆に俺の攻撃は、その全てがその防御のことごとくを苦もなく撃ち抜いていった。


「《天岩戸アマノイワト》は効果を発動しているはず……! なのになんで! 誰かを想う人の心とは、ここまで強いものなのですか……!」


 荷電粒子砲を無効化されたトワ=《スサノオ》は、大剣モードの二刀流となって必死に俺の攻撃を凌ごうとするものの――、


「いい加減諦めろ、お前じゃ俺には絶対に勝てない。量子AIはとっくにそれくらい演算済みだろ?」

 ――もはやそんなものは焼け石に水だった。


 《神滅覇王しんめつはおう》は量子AIの処理限界のさらに上をいっている。

 よってトワ=《スサノオ》は絶対に対処不可能なのだから。


「そら、足下がお留守だぜ――!」

「あぅ――っ!」


 斬撃、とみせかけての意表を突く足払いで、トワ=《スサノオ》は簡単にすってんころりん。


 すぐに立ち上がりはするものの、既に視線の先に俺はいない。

「消えた――!? どこに――」


「どこ見てんだ?」

 飛び上がっていた俺は、前方一回転からのかかと落としをトワ=《スサノオ》の脳天へと勢いそのままに叩き込む。


 ドゴォーーーーン!

 盛大に顏から地面にたたきつけられたトワ=《スサノオ》は、


「くっ、まだです――!」

 それでもまだ立ち上がってみせた。


 しかしその姿は満身創痍で、もう立つのがやっとのありさまだった。

 装甲はひび割れ、ところどころ小さな火花が散っている。


 もう少しで完全に勝敗が決する――というところで、


「……なぜ止めを刺さないのですか?」

 俺は――《神滅覇王しんめつはおう》はピタリと動きを止めていた。


「それだけ無理やりに力を使っていては、あなただってそう長くはもたないはず。こうしている間にも、使用限界は着々と近づいているはずです――」


 既に力を使い切っていた――わけではもちろんない。


「《天岩戸アマノイワト》が再び力を発揮するようになれば、荷電粒子砲を防ぐATフィールドも維持できなくなります。なのになぜ、ここで手を止めるのですか!」


 叫びながら飛びかかってきたトワ=《スサノオ》を、俺は軽くいなしてあしらってみせる。

 もはやいつだって勝負は決められた。


 そんな俺が手を止めた理由――それはもちろん一つしかなかった。


「必殺技があるんだろ? 中途半端は好きじゃないんだ。ほら、使ってみろよ」

 今回もまた《神滅覇王しんめつはおう》のどうしようもないやんちゃのせい、なのだった――。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る