第195話 そうか……うん……なら、よかった。

「《スサノオ》、接続コネクト!」


 トワがそう告げると同時に、屈みこんだ巨大ロボットの胸部がパカッと開いた。

 トワは地面に下ろされたロボットの腕を器用に登っていくと、最後は吸い込まれるように開いた胸部にピタリとおさまった。


 ロボットの目がトワと同じように一際強く真紅に輝き、立ち上がって8メートルの高みから俺を睥睨へいげいする。

 釣られるようにその真紅眼を見上げた瞬間、巨大ロボットが超加速して一気に彼我の距離を詰めてきた――!


「こいつ――っ!」

 視線誘導しやがったな!?

 こんにゃろ、こしゃくな――!


 しかし不意こそ突かれたものの、知覚系S級チート『龍眼』によってその動きをギリギリ捕捉成功していた俺は、ハヅキを抱きかかえるとすんでのところで突進をかわす。

 そのまま壁際まで大きく離脱してハヅキをいったんそこに降ろした。


「ハヅキ、ちょっとここで待っててくれ」

「あの、トワは……」

 泣きそうな顔で見上げてきたハヅキに、


「なーにちょっと気が動転してるだけだ。絶対に俺が元に戻して連れて帰ってやるから安心しろ。今度は俺も一緒に、3人でおままごとしような」

 そう言って、俺はハヅキの頭を優しく撫でてあげた。


「ぁ……ぅん……」

「よしよし、いいこだ。いい子は大好きだぞ。だからちょっとの間待っててくれな」

 こくんと、ハヅキが頷いたのを見て、俺はトワに――《スサノオ》と呼ばれたロボットに向き直った。


「おままごと……こんな状況だというのに、これまたえらく余裕ですね」

 少し呆れたようなトワの声。


「こう見えて俺は強いんだぜ? ハヅキにも約束したことだし、俺はお前を絶対に連れて帰る、絶対にだ」

「思うのは自由です。ですがあなたの内心に私は微塵も興味がありません」


「ああそうかい! なら今度はこっちから行かせてもらうぜ!」


 俺が日本刀クサナギを抜刀すると同時に、待機状態だった戦闘系S級チート『剣聖』が戦闘モードで完全開放される――!


 そして、

「おおおおおぉぉぉぉぉぉっっっっっ――っっ!」

 さっきのお返しとばかりに、爆発的な加速でもって瞬時に距離を詰めて踏み込んだ!


 そんな最強S級チート『剣聖』の、鮮烈な踏込からの天雷のごとき一撃を――、


 ガキン!


「甘いですね」

 トワ=《スサノオ》はいともたやすく受け止めてみせた。

 その手には背部マウントから引き抜いた、重厚でメカメカしい金属の大剣がある。


「やるな――!」

「この程度、造作もありませんよ」


 そのまま俺たちは日本刀クサナギと大剣での鍔迫り合いへと移行した。

 動きが止まったのはちょうどいい、聞きたいことを聞いてみるか。


「トワ、昨日俺を襲ってきたのもお前が《スサノオ》の生体コアだったからなのか? そもそも最初から俺を殺すために近づいたのかよ?」


 もちろん鍔迫り合いをする相手は、8メートルの巨大ロボットだ。

 単純なパワー比べでは分が悪いものの、そこはさすがの最強チート『剣聖』だ。


 押して引いてずらして逸らしてと、微妙に力のかかり具合を調整して接点の力をコントロールすることで、力の差を埋め互角の押し合いに持ちこんでいた。


「まず訂正します。私はもうトワではありません。トワとなづけられたアレは、メインの主人格たる私が休眠している間の交代人格ペルソナに過ぎません。私は《スサノオ》、世界を救う希望の剣――!」


「トワ……」


「そして質問の答えはノーです。あれはトワが眠っている間に一部漏れでた《スサノオ》としての本能が、暴走したにすぎません」

「そうか……」


「今となっては殺せなかったのは残念でしたが」

 そうか……うん。


「……なら、よかった」

「はい? 意味が解りません」


 だってさ、トワは、ハヅキがトワと名付けた少女は、俺を殺す気はなかったんだから――!


 だったらよ――、

「やっぱ何が何でもトワのやつを助けてやらねぇとな!」

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