第127話 姉妹との日常――プライスレス
「し、知らぬこととはいえ、夜を徹して働いてくれたセーヤさんになんて失礼を……! はうぅ、本当の本当に申し訳ありません……」
これ以上ないってくらいに小さく縮こまって謝罪を重ねるウヅキ。
例えるならヤクザ屋さんの黒塗り高級外車に、サッカー部がシュートふかしてサッカーボールぶちこんでドアをへこましちゃったんじゃないかってくらいの、ごめんなさいっぷりだった。
「いいってば。俺だっていきなりこんな大金稼いだって誰かに言われたら、不審に思うのは間違いないし」
もちろんだけど、俺はこんな些細なことで怒ったりはしない。
可愛い女の子にはいつでも甘い――それ以前に、そもそもが俺の説明不足に起因しているわけだしね。
それに高校時代に俺が車にぶつけたやーさんも、顏真っ青で謝りにいったらあっさり笑って許してくれたからな。
ガキのやったことにいちいち目くじら立てるのは、三流チンピラのやることだって言って。
はてさて純白のスーツと紫紺のシャツに身を包んだあなた様は、いったいどの階層の上級ヤクザさまでいらっしゃるのでしょうか?
それはもう許してもらっている間ですら心胆寒からしめられました、はい。
人生最大の恐怖を前にチビりかけた高校時代の懐かしい思い出です。
それはさておき。
「わたしってば、月に一度の面会日には雨が降っても槍が降っても、必ず塩おにぎりを作って会いに行きますから……なんて恥ずかしいことを……」
「いやいやほんと、分かってくれたらいいんだよ。それにウヅキの気持ちはすごく嬉しかったしさ」
可愛い女の子にそれだけ想われて、嬉しくない男がいようか? いやいない。
「あの、ハヅキも……ハヅキも、あいにく……」
俺の腰のあたりの裾をくいくいと軽く引いて、ハヅキがちょっと控え目に――でもそれがまた儚げで可愛らしい――想いを伝えてくる。
「おー、ありがと。ハヅキも来てくれるんだな。偉いぞ。でも、だ。俺はそもそも牢屋には入らないからね?」
「うにゅ?」
「ま、まぁ。その気持ちだけはちゃんと受け取っておくから……」
……とまぁこんな感じで。
俺がいかにしてこの大金を稼いだのか、懇切丁寧に説明して無事にサクライ姉妹の誤解を解き、
「だ、だめです、こんな大金受け取れません!」
受け取りを固辞されてしまうも、とりあえずはサクライ家で預かってもらって食費や日用品といった主に生活費に当面は使ってもらうことで、半ば強引に説得し。
そうして無事に蔵破りの容疑が晴れた俺は――、
「はいこれ、お土産っていうか、プレゼントっていうか……その、だな。ウヅキとハヅキに似合うかなって思って、買ってきたんだけど……ほらいつも二人にはお世話になってるしさ」
お調子もののネコ耳娘・ココのお店で購入した髪飾りを、ようやっと二人に手渡したのだった。
渡しながら、
「稼ぐのと買うのと順番が逆だったら、もっといいものを買えたな……」
という事実に気が付いてしまう。
いやいや、でも、だ――。
「これはナイアのお勧めの店で、目利きのココが見繕ってくれた中から、これこそが二人に似合うと俺が選び抜いた、言ってみれば絶対無敵で熱血最強なマストアイテムのはず……!」
だから臆することはない、自信をもってプレゼントすればいいんだ――!
「ど、どうかな……?」
……自信とはなんだったのか。
臆しまくりの俺だった。
二人の反応や様子をうかがいながら、おそるおそる感想を聞いてみると――、
「わぁ! かわいい髪留めですね! それにセーヤさんからのプレゼントです! えへへ、わたしとってもとっても嬉しいです!」
すっごく喜ぶウヅキがいてくれて。
「そ、そうか……うん、ならよかった」
そんなウヅキを見られて、俺もすっげー嬉しいぞ!
「まなしー、ありがと……ハヅキも、うれしい……」
「うんうん、ハヅキにも喜んでもらえて俺も嬉しいよ」
ハヅキも可愛らしくはにかみながら、喜びの気持ちを伝えてくれる。
さすがココ――いや敬意を込めてココさんとお呼びしなくてはいけないな!――評価は上々じゃないか!
また近いうちに、今度はちゃんとお金をもって買いに行くからな!
「うにゅ、まなしー、つけて」
ハヅキがここぞとばかりに甘えんぼしてくるので、
「お、いいぞ。ちょっとじっとしてろよ…………ほい、できた」
髪を結って髪留めを付けてあげる。
「ハヅキ、すごく可愛くなりましたよ。とってもよく似合ってます」
「ほんと……!?」
「ああ、ほんとよく似合ってるぞ。少し控え目な花飾りがいい
「うにゅにゅ……おねぇと、おそろい……ありがと、うれしぃ……」
上目づかいでほほを染めるハヅキと来たら。
くー!
めちゃくちゃ可愛いんですけど……!?
「ウヅキも良かったらつけてみてくれないか」
「はい、もちろんです!」
言って、いそいそと髪をまとめ始めるウヅキ。
女の子が髪の毛をまとめる姿って、なんかこうグッとくるものがあるよね。
少し頭を傾けるとサラサラふわふわの髪がさっと美しく流れて、思わず目で追っちゃいます。
ウヅキは綺麗な髪を手でまとめると、プレゼントした髪留めでいつものサイドポニーをくくりなおした。
「あの、どうでしょうか……?」
「…………」
「セーヤさん? あ……もしかしてあまり似合ってませんか……?」
無反応の俺を見て、不安げに髪留めや髪をもう一度、整えはじめるウヅキ。
「……ううん、違うんだ。悪い、完全に見とれてたって言うか。似合ってる。すごく似合ってるよ!」
「え、えへへへへ……セーヤさんに褒めてもらえて、わたし嬉しいです!」
素敵に上機嫌で笑うウヅキときたら、それはもう本当に可愛くて――。
そんなウヅキの可愛さに、俺は言葉を失うくらいに見惚れてしまったのだった。
明るく華やかな花飾りは、ウヅキの可愛らしさをさらにぐいぐいと押し立てていて。
ただでさえ文句のつけようがないウヅキの可愛さが、さらに大きく跳ねあがっていたのだから!
「だめだ、可愛いすぎて生きてるのが辛い……これがマジ天使ってやつか……」
その後、ウヅキとハヅキの可愛さににまにましながら甘えたり甘えられたりして。
しかし、ひよこ鑑定の時に使用した耐久系S級チート『24時間戦えますか』の反動で、強烈な眠気を催しはじめた俺は。
「だめだ、マジで眠い……」
プレゼントに喜ぶウヅキ&ハヅキの美人姉妹とのきゃっきゃうふふエンジョイタイムを切り上げると、ちゃちゃっと温泉に入ってから、すぐに泥のように眠ってしまったのだった――。
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