第79話 あまり俺に入れ込み過ぎると、心が火傷するぜ

「お疲れさま、セーヤ。文句なしの大活躍だったね。……ところでいい感じにお楽しみ中のところ申し訳ないんだけど、そろそろいいかな?」


 ウヅキわしづかみ中の俺に、そんな風に声をかけてきたのはもちろんナイアだった。

 その隣にはグンマさんも一緒だ。


 一瞬にして「チートの呪縛」から逃れて我に返ると、俺は腹筋と背筋を総動員。

 ウヅキを抱えたままバネのように跳ね起きた。


 立ち上がるとすぐに、舞踏会でレディをエスコートする紳士のように、そっとウヅキを解放する。


「ぁぅ……」

 顔を真っ赤にしながらまくり上がったスカートを下ろし、胸元を整えてと、いそいそと乱れた着衣を直すウヅキ。


「ウヅキに怪我がなくてよかった。まさか、あんなところにバナナの皮があるなんてな」

 セクハラも乳わしづかみも、さも何事もなかったかのようにクールに平然を装う俺。


 ふっ、ピンチってのは人の弱い心が生み出すものなんだ。

 焦るからますますピンチになるんだ。


「こうやって何気なく振る舞えば、意外とさらっと次に進むものなんだ……!」

 案ずるより産むが易しってな。


「え? あ、そうですね。あ、ありがとうございました?」


 さすがに最後はちょっと疑問形だったけれど。

 うん、俺への信頼度が極めて高いウヅキは、常に俺に対して肯定的なのだった。


 おかげでどうにか無理やり誤魔化せた気がするぞ……!


「いやはや相変わらずマナシロさまは、あちらの方もヤンチャなご様子ですな。これは、ひ孫の顔を見るのもそう遠くは無さそうですじゃ」

 グンマさんがすっごく優しい見守るような目をしながら、またもや爆弾発言を投下した。


 そして当たり前なんだけど、まったくもって誤魔化せてはいなかった。


 いやね、最初はほんと善意だけだったんだよ?

 すってんころりんしかけたウヅキを見て、俺がクッションにならないと! って思ってさ?


 それが鷲掴わしづかみしたおっぱいの感触がすごすぎて、その、ついその後は魔が差してしまったというかですね、はい……。


「ごめんなさい、今は反省しています」

 素直に容疑を認めて謝罪する俺だった。


「ところで、ちょいとセーヤに聞きたいんだけど」

 状況が一段落したところで、ナイアがすっと居住まいを正してから尋ねてきた。


「どうしたんだ、そんな改まって?」

 旧知の仲ってくらいに今まで気さくにやり取りしてたナイアが、こんな風に改まるってことは、今からする話というのは、よほど重要な用件なのだろう。


 俺も浮ついた気持ちを一新して、ナイアの言葉に真摯に耳を傾けようと姿勢を正す。


「いいぞ、何でも聞いてくれ」 

 俺がいつになく真剣な面持ちでナイアを促すと――、


「じゃあ聞くけどさ? ――セーヤは年上の女性は好きなのかな?」


「……? えっと……?」

 ナイアは急に何を言っているのだろうか……?


「そりゃまぁ好きか嫌いかで言ったら好き、だけど……」


 むしろ、えっちなお姉さんとか大好きです! とは思っても言わないけどね?

 俺ももういい大人なので。

 今はチートのおかげで18歳だけど。


「でもなんでそんなこと聞くんだ? あ、さては、ドラゴンすら退しりぞけたこの俺の超カッコいい勇姿を見て惚れたな? ふっ、こう見えて俺はやる時はやる男なんだ。でもあまり俺に入れ込み過ぎると、心が火傷やけどするぜ、なんてな? ごめんごめん、冗談だよ――」


 ラブコメ系S級チート『ただしイケメンに限る』が無ければ、絶対に言えないセリフである。

 そして99%冗談のつもりで言ったんだけど――、


「ずばり、言ってくれるな。さすがはセーヤ、全部お見通しってわけか。……実は、その通りなんだ」


 ナイアはまるで初心な乙女のように、頬を赤らめて目を逸らしたのだ――。

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