第75話 《神焉の黒き炎》―ラグナロクー

「今から俺が、ドラゴンのプライドごと、そいつを完膚なきまでに捻りつぶしてやるからよ――!」


 俺の発した挑発――これは俺の中の《神滅覇王しんめつはおう》の心の欠片が言わせたものだった。


 《神滅覇王しんめつはおう》は目の前のあらゆる敵を叩き伏せ、その全てをおのが軌跡=覇道とする常勝無敗の戦闘チートだ。

 奥の手を隠したままの相手に小狡こずるく勝つなど、そんな無粋は到底許しはしないのだった。


 そしてその傲岸不遜ごうがんふそんかつ尊大な物言いは、圧倒的な実力に裏打ちされた、神をも滅する覇王が下した勝利宣言なのだ――!


「――まぁ、必殺技の撃ち合いは俺も嫌いじゃないんだけどさ」

 ただまぁ、あれだ。


「これだけ派手に啖呵たんかを切ったんだ。万が一にでも負けやがったら俺はキレるからな? ガチギレだからな? 何が何でも被害ゼロ、文句なしの完全勝利で勝ってみせろよ?」


 ほんのわずか、一抹の不安を覚えた俺に、


 ――誰に物を云っている?


 そんな不敵に笑う声が、聞こえた気がした――。


 そして。

 挑発に乗って――、いや乗るしかない《神焉竜しんえんりゅう》が、怒涛の勢いで闇黒あんこくの粒子を蓄え、ぞうし、溜め込みはじめた。

 《神焉竜しんえんりゅう》を中心として、その周囲に破滅の粒子が波打ちながら渦を巻きはじめる――!


「昔一度だけ見に行ったことがあるんだけど、あの時見た渦潮を黒く禍々しくしたみたいだな……」

 なんてことをふっと思った。


 この最終局面ですらそんな他愛もないことを思えてしまえるのが、全てを捻じ伏せ従えてきた《神滅覇王しんめつはおう》の《神滅覇王しんめつはおう》たる由縁なのだろう。


 そして警戒、注意、索敵、防御――、その他もろもろ余計なものを全てオミットして、渦の中心でただただ力を溜めることだけに没入した《神焉竜しんえんりゅう》は、もはや完全な無防備状態だった。


 今なら弱点である逆鱗げきりんを打ち抜いて無力化することは、《神滅覇王しんめつはおう》と神剣《草薙くさなぎつるぎ》の力をもってすれば、赤子の手を捻るよりも簡単なことだ。


「でもま、それじゃ意味がないよな。ああ、意味がない――」

 俺の中の《神滅覇王しんめつはおう》が、極上の獲物を前に笑みを浮かべながら鎌首をもたげはじめた。


「これがお前の『固有神聖』だな? 実にいいじゃないか、神話を終焉わらせし王竜よ。想像以上だ。最後はお互い、本気マジ本気マジの真っ向勝負で、分かりやすく白黒はっきりさせようぜ!」


 《神滅覇王しんめつはおう》の存在感が、俺の中でぐんぐんと大きくなっていく――。

 俺の心が、負けるなんて微塵も考えていない煌々こうこうたる黄金色に彩られてゆく――!


「全てを終焉わらせ神をも喰らったお前の《神焉の黒き炎ラグナロク》と、未来さき強欲ほっし続ける《神滅覇王しんめつはおう》の果てなき未来を望む一刀と――! 終わりと始まり、どちらが上か、力比べと行こうじゃないか――!」

 

 そう高々と宣言すると、俺は神剣《草薙くさなぎつるぎ》を立てて顏の右前に構えた。

 いわゆる八相の構えだ。

 そして――、


「『固有神聖』《天照アマテラス》、完全開放――!」


 俺の中で無限連鎖の黄金の力を生み出す小恒星たいよう――《神滅覇王しんめつはおう》の根源たる『固有神聖』《天照アマテラス》。

 それを全開放し、その全ての力を余すことなく神剣《草薙くさなぎつるぎ》へと集約するように注ぎ込んでゆく――!


「おおおおおぉぉぉぉぉぉ――――――っっ!」


 裂帛の気合いとともに、臨界ギリギリまで高まった《天照アマテラス》から猛然と供給される、果てしない黄金の力。

 その全てを注ぎ込まれた神剣《草薙くさなぎつるぎ》が、本物の太陽のごとく猛烈な輝きを放ち始めた――!



「『古き世界は鼓動ときを止め――』」


 それは例えるなら、黄金の火柱。

 もはや真昼のごとく明々と辺りを照らす神剣《草薙くさなぎつるぎ》は、長さ30メートルはあろう金色こんじきに輝く長大な光の柱へと姿を変えていた。



「『しんなる世界の幕が上がる――』」


 同時に《神焉竜しんえんりゅう》も暗黒粒子のチャージを終えて、発射体勢へと入っていた。

 首を大きく一度真上に向けると、叩きつけるように一気に振りおろし――、


「グォォォォォォオオオオオオオオオオ―――――――ッッッッ!!」


 溜めに溜めた破滅の力を、大咆哮とともに俺へと向かって解き放った――!


 射線上の数十キロをちりも残さず焦土と化すであろう、その破壊の権化たる直射攻撃は、神話の時代に終止符を打った、まさに神をも喰らう《神焉の黒き炎ラグナロク》――!


 そんなケタ違いの一撃を前にしても――、しかし今の俺に臆する気持ちは微塵も存在しないのだった。

 ただ俺の中にあるのは、未来さきをし続ける熱病のような強い強い想いだけ。

 俺の欲する未来、それはもちろん――!


「可愛い女の子にモテモテの、異世界ハーレムマスターに――、俺は、なる!!」


 その強烈な情動に突き動かされるように――、


「我が一刀を受けてみよ、《神焉竜しんえんりゅう》――!」


 俺は極限にまで密度を高めた光り輝く黄金の剣を、振り下ろした――!




「『光、あれ――、《天地開闢セシ創世ノ黄金剣アマノヌホコ》――!!』」

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