第14話 約束

「ここがわたしの住むアウド村になります」


 無事に『月華草』をゲットした俺たちは、暗くなる前にとやや急ぎ足でウヅキの住む村へとたどり着いた。

 森林地帯を抜けるとすぐにある、広大な平野部のすみっこに位置しているらしい。


「にしても、森を抜けるのに相当歩いたぞ……ウヅキは健脚なんだな……」

「辺境での生活は歩いてなんぼですから。わたし、運動は苦手ですけど、歩くのだけは得意なんです、えへへ」

 涼しい顏をみせるウヅキだった。


 俺なんてもう、移動系B級チート『徒歩かちよりもうでけり』の疲労軽減効果がなかったら、たどり着けなかった自信があるってのに……。


 そして到着と同時に、探索系S級チート『探検、発見、ボクの町』が発動する。

 これは目的地に到着することで、ここまでの経路や現在の位置情報などを頭の中に地図化して教えてくれるチートだ。


 スマホでいつでも居場所を検索できる環境にいた俺にとっては、この効果は正直めちゃくちゃありがたかった。

 そのうち手書きの紙の地図を読まないといけなかったりするかも……とか、実のところその辺かなり不安だったんだよね。


 村の敷地内に入ると、二人、肩を並べて中央の小道を歩いていく。

 周囲はすでに暗くなっていて、左右の家々には人工的な明るい光がともっているのが見てとれた。


「電気が来てる、のか?」

「でんき……? 灯り石あかりいしのことですか?」

灯り石あかりいし?」


「光を放つ鉱石のことです。帝国北部の山岳地帯で大量に産出されるんですけど、小さくて長持ちして使い勝手が良くて。夜でも本が読めるので、すごく便利なんですよ」

「へー、そんな風になってるんだな」


 さすがに電気じゃなかったか。

 どうやらテレビとかはなさそうだ。


「このあたりの村にはありませんけど、街では家だけでなく、道にも等間隔に灯り石あかりいしが付いていて、夜でも外が明るいんです。街灯って言うんですよ」


 俺が灯り石あかりいしを知らなかったのをみて、わざわざ補足してくれたようだ。

 ほんとウヅキは優しくて気が利くいい子だな。

 普通に話しているだけで、とても幸せな気分になってくる。


 もちろん現代日本に住んでいた俺にとって、街灯は見慣れたものだ。

 でもウヅキの100%の厚意に、いちいち知ってるアピールするのはさすがに野暮ってなもんだろう?


「今度一緒に見に行きませんか? すごくきれいですから」

 ぴくっ。

「なん……だと?」

 今、ただならぬ単語が聞こえたぞ?


 「一緒に」「見に行く」だと……!?

 誰と誰が?

 え?

 俺とウヅキが?

 マジで?


「……いいね、行こう。一緒に行こう。今すぐにでも行こう」

「今すぐはさすがにダメですよ……お家《うち》はすぐそこですから。でも、近いうちに必ず一緒に行きましょうね」


「約束だからな?」

「はい、約束です」


 ……ヤバい。

 今、わりと自然な流れで、はからずも夜デートの約束をとりつけてしまったぞ。


 その単語を知って以来、インターネットで検索しては恋い焦がれた大人のデート、それが夜デート……! 

 「夜」の「デート」という、夢とロマンとエロスに満ち溢れたスーパーパワーワードである。


 ついに、ついに俺も、大人の階段を上っちゃうかもしれない可能性がなくもない時がやってきたのだ――!

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