#42 人を焼く女の夢

 こんな夢を見た。

 厨房に立つ女が鍋を火に掛けて、その中に赤い餅を投げ込んでいる。女は高貴そうな容姿だが、一仕事終えた娼婦のような気怠げな感じを体中に湛えている。料理をしているとは思えない。そこで、餅が焦げるぞ、食わないのか、と横から聞いて見た。ほんとう、もう焼けているわね、と云いながら、女は鍋を覗いた。俯くように鍋を見た横顔は、悲しくて仕方がないという様子であった。

 しばらくして、女がまたこう云った。

「可哀想だわ、この人達。治ったと思ったのに、かさぶたがとれないの」

 自分は気になって鍋の中を覗いて見た。やはり人ではなく赤い餅が焼かれており、所所焦げ付いている。焼けば焦げるばかりで仕方あるまい、と女に云った。女はやっぱり悲しい調子で、ええ、仕方ないわ、と云いながら、ついに餅を取り上げた。そして、見ていたら、取り上げた餅を全て塵箱に捨てている。捨てるのかね、と聞き返した。そうよ、これより他にないの、と女は悲しそうに云った。

 それから、次の赤い餅を取り出して、女はまたこう云った。

「焼かなければいけない人はまだまだいるの。でも、あなた、先に焼いてあげましょうか」

 云われてみれば腹が減っている気がしたので、そうか、なら、焼いてくれるかね、と首肯うなづいた。それを聞いた女は再び手に持った赤い餅を鍋に投げ込んだ。と、その瞬間、灼熱あつさを感じて目が覚めた。

「死人の夢を見たんだな」と目覚めてから思い至った。

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