#32 蝶をみた夢

 わたしは罪を告白した。

 懺悔を聞いた母は何もいわなかった。

 ただ黙っておろかなわたしを抱きしめた。

 赦されたのか――いや、罪の意識はますます深まるばかり。

 だが、それでも何か救われた気持にもなれた……。

 あの春の日、わたしは蝶になり、翩翩と舞い楽しむ夢をみたはずだった。

 だが、もう春の夢をみることはかなわない。

 幼い夢の中の蝶を握りつぶしたのはわたしなのだから。

 目覚めたわたしの冷たい体は母の温かな腕に包まれていた。

 わたしは蝶ではなく蛹だった。

 蛹が蝶をみた夢だった、と気づいた。

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