#26 名月姫拾遺

 以前に名月姫のことを書いた。

 これについてふと思う事を蛇足ながら書く。

 以下の文章は『名月姫のこと』を読むを前提とする。


 現代に伝わる明月峠――名月姫の伝説は、嫁入り道中にこの峠を通ると凶事に遭う、というものだが、これを名月姫の怨念のためとするのは軽率に思われる。凶事の因をはかない男女の悲恋とその怨念だと考えるのは簡単だが、これは名月姫の伝説を知る我々の立場で思うことだろう。

 というのも、当然ながら、名月姫にとっての嫁入り道中とは平清盛に望まぬ婚姻を迫られて受け入れざるを得なかったことからも悲惨なものであるには間違いない。

 とすれば、名月姫というひとにとって嫁入り道中とは断頭台への道を歩むが如き行為で、これを止めることはむしろ姫の慈悲の表れといえるのではないか。

 ――むろん、本来の嫁入りは祝事であるから、客観的に見れば、これを止めることは凶事に違いないとしても。


 なお、題を拾遺としたのは古人がこれを言い訳の意を含んで用いたことによる。

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