ふと思う事ながら

都下月香

#1 曼珠沙華のこと

 曼珠沙華をみた。

 真赤なそれは、鉄道沿線の盛土にぽつり、と一輪だけ咲いていた。

 ふと私はあることばを思い出した。

 それはまだ幼かった私に祖母が言ったものだった。


「真赤な曼珠沙華が美しいのは、亡くなった人の死体を養分としているからなの」


 祖母はやさしい人であった。

 その方に詳しくはないが、曼珠沙華には毒があるらしい。祖母は、やんちゃ盛りの私が曼珠沙華に興味をもち、不用意に触らぬようにするための脅し文句として言ったのだと、今では思っている。


「真赤な曼珠沙華が美しいのは、亡くなった人の死体を養分としているからなの」


 そのことばだけが印象的で、それからずっと、私は曼珠沙華を畏れている。今でも真赤な曼珠沙華をみると、その花弁から血が滴っている気がするのだ。

 だから私は、曼珠沙華をみるたびにそのことばを思い出す。

 今ではもう、記憶に遠い、顔も朧げになりつつある祖母の声を思い出す。

 やすらかな彼岸に眠る、懐かしい人のことばを。


 真赤な曼珠沙華が美しいのは――

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