AOIとAYAME、そして
(どうしよう。葵さんはあたしを見てどう思うかな。それに虎汰くんのお母さんなんて)
様々な不安要素が足を重くする。けれどお墓に手向けられた花を見て、あたしはさっき聞いた話を思い出した。
(……毎年お墓参りに来てくれてたんだ。東京からわざわざここまで)
それは故人への想い。安らかにという気持ちがなければなかなかできることじゃない。
「夕愛ちゃんね。初めまして」
さらりと黒髪を揺らして綺麗なレモン形の瞳が微笑んだ。こちらがきっと葵さん、己龍くんと同じ瞳をしている。
傍にいた煉さんが水桶を手に、さりげなく紫苑ちゃんを伴って水場の方へと消えていった。
「……こんにちは、方丈夕愛です。あの、お母さんのお墓参りありがとうございます」
ペコリと頭を下げると、サワ……と緑色の風が頭上を渡る。まるでお母さんが『よくできました』と頭を撫でてくれたよう。
「あらぁ、ホントに乃愛によく似てる。ちょっとゆるめのメレンゲみたいな感じ。懐かしいわ」
「メ……?」
顔を上げると、葵さんの隣でここなちゃんの大人バージョンみたいな女の人がイタズラっぽく笑ってる。
(うわっ! コレ絶対、虎汰くんのお母さんだ、若いぃ! でもメレンゲって)
「こんにちは夕愛ちゃん。ウチの虎汰と己龍くんがお世話になってます」
「こ、こちらこそ、お二人には大変お世話に」
ぴょこぴょこと頭を上下させるあたしの前で、今の綾女さんの発言が物議を醸す。
「ちょっと綾女、メレンゲって卵白よ? せめてホイップクリームとか。ね、虎汰くん」
「うん、葵さんナイス。そっちのが夕愛らしいね。ピンとしてなくてダレたホイップクリーム」
ちょ、虎汰くん!?
「なによー、虎汰はすーぐ葵姉ぇの肩持つー」
「綾女さん、俺はダレたメレンゲに一票だ」
己龍くんまでなんの投票? てかダレてるとこは同意なの!?
「乃愛もそうだったわ。ふわんとしててどこか危なっかしくて。ついててやらなくちゃって思うのよね」
綾女さんがお母さんの墓石に遠い微笑みを落とした。
そうだった、この人はお母さんの高校時代の親友。きっとそんな危なっかしいお母さんを色々と助けてくれたのだろう。
「夕愛ちゃん」
改めて声をかけてくれたのは葵さん。己龍くんと同じ、背筋が凍るほどの美女だけどその目の色は柔らかい。
「乃愛ちゃんの色々なものを受け継いで大変だとは思うけど、己龍も虎汰くんも煉だってついてるわ。頑張って」
ああ、この人はやっぱり己龍くんのお母さん。そして虎汰くんが大事に思う、大きくて素敵な女性だ。
「はい……ありがとうございます」
万感の想いを込めて。
ありがとうとごめんなさいと、それからどうぞよろしくも……。
「お話の途中に失敬。夕愛くんには僕も付いていますのでどうぞご安心を」
横から流れるような動作で亀太郎くんが葵さんと綾女さんの前に立った。
「ああごめんなさい、煉から聞いてるわ。玄武の星宿の子も一緒にいるって。あなたのことなのね」
「申し遅れました。僕はこういう者です」
シュパパッ!とどこからか取り出した紙切れを亀太郎くんが二人に手渡す。
「名刺? 神田グランデ・リゾートカンパニー専務取締役……神田 亀太郎?」
途端に葵さんと綾女さんの顔がパアッと明るくなった。
「まあ! じゃあもしかしてあなた、鶴太郎さんの息子さん?」
ツルタロウ? センムトリシマリ?
「は、いかにも。神田 鶴太郎は僕の父です。お二人のお噂は父からかねがね。お会いできて光栄です」
ニコッと微笑むほっぺに埋もれたつぶらな瞳。わけがわからず超絶シブい顔になるあたしたちを無視して、三人の話は弾む。
「鶴太郎さんには昔から本当にお世話になってるのよ。ウチの大手スポンサーでもあるし」
「全国の神田リゾート系列のホテルはいつも顔パスにしてくださるわ。専務ってことは、もう会社も任せるおつもりなのね」
「いや、役職に関しては肩書を預かっただけの事。これから精進、まだスタート地点の若輩者です」
(亀太郎くん……どこの凄腕営業マン? てか噛まないで喋れるんだね……)
名刺を上から覗き込む虎汰くんと己龍くんを、それぞれの母が眉間にシワをよせて見上げた。
「己龍、大変なライバル出現ね。あなたって顔だけで他はけっこうポンコツだし」
「おいコラ……!」
「はっはっは」
……ん?
「虎汰もよ。夕愛ちゃん巡って今三つ巴でアツいんでしょ? あんたもルックス以外はわりとメンドクサイから」
「メンド……!」
「はっはっはっは」
あれ? もしかして。
「……」
「……あ?」
「はて、なにやらさっきから……」
合いの手のように挟まれる笑い声に、虎汰くんと己龍くん、そして亀太郎くんが顔を見合わせる。
あたしはちょっと横にずれて、綾女さんと葵さんの後ろを覗き込んだ。
「あ、やっぱり! いつからいたの、お父さん」
「はあ!?」
虎汰くんと己龍くんが慌ててそれぞれの母親を押しのけると、後ろにチョコンと立っていたのはあたしのお父さん、方丈
「最初からいたよ。葵ちゃんたちを駅まで迎えに行って一緒に来たんだから」
「あらやだ。あなた達、気が付いてなかったの?」
「渉さん小柄だから私たちに隠れちゃってたのねぇ」
ほほほ、うふふ、はっはっは、と親たちが仲睦まじく笑い合う。その光景にあたしたちは石像のように固まった。
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