第9話 過ぎ去った時
私は呪いにかけられた。
死に見放され、
死さえ与えられなくなるという呪いを。
かけられたのは目的があるから。
滅びゆく世界を救うという目的だ。
無理やりかけられたのではなく、
私は世界を救うために志願した。
志願者は私以外に数名。
皆死ねなくなる呪いを受けた。
私含め他の志願者は世界が滅ぶと聞いても何が原因かは知らなかった。
そして死ねなくなるという本当の目的を。
不死となって数日が過ぎる。
体は慣れたかと言われ私たちは肯定した。
すると私たちはとある施設に入れられた。
外とは隔絶されているそこは、志願者同士だけで共同生活を送る為の場所だ。
そこで私は他の志願者たちと心を通わせ仲間となった。
よく分からないがそこで数年間過ごした。
何と戦うこともなく。
その数年の間に男女一人ずつ外へと消えていった。
残った私たちと外で会うという約束をして。
そして私は知ることになった。
私たちが不死でなければいなかった理由を。
それを知ったのはこの場所に大きな衝撃が起こってからだ。
その衝撃で建物は崩れ、私は外に出ることができた。
久しぶりの外の空気は、建物内より汚れていた。
外は瓦礫の他に何もなかった。
瓦礫の隙間から這い出ると、私がいたのは地下に作られた研究施設のような所だった。
私は状況を知るために瓦礫をかき分け、探った。
そして何かを書かれた紙きれを見つけた。
私はそれを読んだ。
そこに書かれていたものは生活のために必要な知恵だ。
建物の作り方から作物の作り方花の育て方と豆知識のようなものまで。
その近くにもう一つ紙が落ちていた。
不死者たちには見せるなという注意書きのある紙が。
私はそれを拾う。
その内容を言うとこうだ。
不死者は死なない。
だが消滅しないわけではない。
私たちはやり直すことができる。
最初のペアは失敗。
二次のペアは失敗。
三次のペアは失敗。
私が別れを言ってきた人達の名前とともにそう書かれていた。
私は見ていられなくなった。
それでも読むのをやめなかった。
不死者とは。
そう書かれたページをよむ。
不死者とは、
死に見放され死ねなくなったものを指す。
不死者は食事もする排泄もする遊びもする。
普通の人間と死なない以外は同じだ。
だが不死者は食事をしなくとも死なない。
普通の人間と同じように殺そうとしても死なない。
だが不死者同士に子供ができることによってその呪いはとける。
世界というが、
それは種があってこそ。
世界は種が消えて滅びるほどの戦争をしている。
ここで私たちは不死者の死なない特性を利用する。
世界そのものを一度殺し、
不死者を使って種を存続させるのに適した場所を探させるのが目的だった。
だが、不死者たちは世界中に配置すると世界を殺す前に子を作ってしまった。
失敗だ。
他にも目的とは違い戦争に加担する不死者が現れた。
失敗だ。
リセットするしかない。
リセット方法。
そう書かれたページがあった。
リセット方法は世界を殺す装置に鍵を使い、
世界を消滅させる装置に切り替えるだけだ。
私たちは失敗した。
リセットをすると私たちもろとも全て消えてしまう。
だが地下には三人いる。
男一人に女二人。
それと、生きているか分からないがどこかに捨てた呪いの生贄の少年一人。
我々はその者たちとこの施設に搭載された不死者たちを見守るAIに希望を託す。
AIは君たちを導くだろう。
この本は消滅しないようにしまっておくよ。
今読まれているんなら消滅はしなかったんだね。
私は全部思い出した。
彼からもらった手紙のおかげで。
思いだしたくないものも全部。
私の約束はまた会うことだった。
でも私は誰にも会えなかった。
今の私の約束ではなかった。
残された三人の内の二人。
私以外の二人がAIの導きを受け村を作ることに成功した。
集落には人が増え、
それなりの生活もできるようになり、
AIの協力もあり町になるまでだったという。
私はペアがいないということで花を育てることにした。
私たちが長らく暮らしてきた場所で私は花を育てたかった。
AIと会話ができる場所だけを地上に残し、その他全部を地中に埋めた。
そんなとき、町を作った二人は私も町に来るようにと提案してきた。
けれど花畑を作るのに忙しいので断った記憶がある。
その時に花畑が完成したら見に来てという約束をしたのだった。
そのころだった。
AIを気味悪がる人が現れて攻撃を仕掛け始めた。
AIは攻撃されたことで敵と判断。
AIと人の戦争になってしまった。
その時だ。
私が銃を持つようになったのは。
私はAIに、約束の記憶を隠され記憶を改竄された。
それで、ありもしない約束のために近づくものを撃ち殺すようにされたんだ。
私が今まで待っていた約束は幻想だった。
記憶を書き込まれ、本当の約束を忘れて。
手紙は他にもこう書かれていた。
AIは壊すしかなかった。
お前の記憶はきっかけがあれば簡単に戻る。
つくづく優しいAIだ。
お前もそう思うよな。
俺たちはAIと相打ちだ。
一人にさせてすまない。
そして最後に、
遠くから見えただけだけどな、
綺麗な花畑だったよ。
実に何年ぶりだろうか? 流したのは。
前流したのはいつかも知れないし、
どこかに忘れていたものと思っていたけど、
私の目からは熱いものがとめどなく流れていた。
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