決着 XXXIII.交わらない恋

 「お嬢様」

 邸に戻り、ルルにはお茶を淹れてもらってから下がってもらった。

 部屋には私のとジークだけが残っている。

 この後、少し仕事をしてから休むつもりだった。


 「何?」

 「お嬢様はイサック殿下のお気持ちに気づいておられますよね」

 「・・・・・」

 「あなたはそれ程鈍感ではありません」


 邸に来た時学校の話が出て一般科にすれば良かったのにと言った私に対して『それじゃあ君に会えないだろ』とっ答えたイサック殿下。

 確かに分かっていた。

 それが好意から出た言葉だから。

 でも、そこで認めて何になる?私は隣国に嫁ぐつもりはない。

 下手に動いて両想いになったと勘違いされたり勝手に婚約話を持ち込まれても面倒事が増えるだけだ。

 だから聞かなかったことにした。


 「・・・・ジークは、私が隣国に嫁いだ方がいいと思っているの?」

 「いいえ」

 「では、もし私が隣国に嫁ぐことになったらあなたはどうします?」

 以前も似たようなことを聞いた。

 「ついて行きますよ。私はあなたの執事なんですから」

 あの時と同じ答えは決まっている。

 それが覆ることは決してないのだろう。

 「それは心強いわね。でも、私が隣国に嫁ぐことはないから。

 これだけ読んだらもう休むわ。あなたも下がっていいわよ」

 「失礼します」

 そう言って部屋から出て行った後、1人になってしまった私は苦笑を漏らした。

 「初恋は実らないものと言うけど、ままならないな」

 その呟きが誰かの耳に入ることはなかった。



 同じころ、部屋を出たジークは・・・・・。

 「何を聞いているんだろう、俺は」

 隣国の王子がセシル様に特別な感情を抱いていることには直ぐに気がついた。

 伯爵や陛下、この国が富を生み出しているセシル様を容易く放すことはないと思っている。

 それでも可能性がゼロではないこともまた事実で。

 いつかは誰かのモノになることが決まっているのも事実。


 仕方がないと諦めたこの気持ち

 あの頃とは違うのだと。


 でも、湧き上がる気持ちが時々どうしようもなく自分を苦しめる。


 ポケットから出したペンダントのロケット。

 銀細工に施されたそれの中にはあの時の約束の花であるリッカが入っていた。

 最早、果たされない約束となった。

 本来なら捨ててしまった方が良い物なのかもしれない。

 けれど捨てることができずにズルズルとここまで持って来てしまった。

 この思いと同じに。

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