グロリアの再教育 XX.お茶会
渋々ではあるがグロリアは何とかお茶会に出席してくれた。
けれど様、主役が遅れての登場はあまり好ましくはない。
グエンは顔をあからさまに顰めているがあまり感情を表に出さないロイ様とクリス様は笑ってはいるが目の奥が冷めている。
直情型のグエン様に比べ残り2人は怒らせると一番厄介で怖いタイプだ。
「やぁ、グロリア嬢。夜会ぶりだね」
遅れてやって来たグロリアの手を引いて椅子に座らせたのはこの中で最も紳士的なロイ様。
そして椅子に座った彼女に笑顔で話しかけて来たのは中世的な顔をして女性に見間違えられる容姿をコンプレックスに持つが、それを武器にして様々な交渉を有利に進めていくことのできるクリス様だ。
「はい、お久し振りです」
相変わらずグロリアはオドオドしていて声も小さい。
だがそんなことは誰も気にしない。
されても困る。
「1か月間、部屋に籠りきりだったんだって?大丈夫」
・・・・・だから何で他人が家の中の情報を知っているんですかね。
私は今回グロリアのサポート役として出席している。
クリス様に目を向けると可愛らしい顔で「何か?」と声には出さないが問いかけてくる。
家の中の情報がだた漏れなのだが後で父に報告して調べてみよう。
こういうちょっとした情報なら良いのだが伯爵家でもあまり人に知られたくない機密情報の1つや2つあるからね。
「・・・・はい」
会話が続かない。
「今日のお茶はとても美味しいですね」
たまらず助け舟を出したロイ様
「どこのお茶なのですか?」
「え、えっと、その」
眼をウロウロと泳がせた後にグロリアは私を見た。
私はお茶会に出席する前に出すお茶やお菓子について説明をしたはずなのだがこの鳥頭は3歩歩いただけで忘れるのか?
「隣国のものですわ。とても貴重なものでお父様におねだりして取り寄せたのです。
ねぇ、グロリア」
「・・・・・は、はい」
「そうなんですか。とても貴重な物なんですね」
ロイ様は何事もなくスルーしてくれた。
グエン様は興味がないのかさっきから黙ったままだ。
見た感じからすこぶる機嫌が悪い。
「グロリア嬢は普段はどのようなことをして過ごされるのですか?」
ロイ様は笑顔で話を続ける。
「・・・・・特には」
おい、そこは何か答えろよ。
話を続けようという努力をしろ。
苛々で私の令嬢としての言葉遣いも可笑しくなってきそうだ。
「読書や刺繍などは?」
「本は読みますが、刺繍はあまり得意では」
「どのような本を読まれるのですか?」
「恋愛小説を」
「可愛らしい趣味ですね」
「・・・・・ありがとうございます」
「グロリア嬢は随分、大人しい性格をしていらっしゃるんですね。
お茶会といった催しなどはお嫌いですか?」
「病弱で、あまり出席していないので慣れていなくて」
・・・・・だから誰が病弱なんだよ。
あんたここ何年も風邪ひいてないじゃん。
いい加減突っ込むのも疲れて来た。
「そうですか。では少しずつ慣れていくのもいいかもしれませんね」
「・・・・・可能な限りは」
「・・・・・・」
ロイ様はニッコリ笑っている。
笑っているだけに何を考えているのかさっぱり読めない。
グエン様は話に関わる気がないらしく眉間に皺を寄せたままグロリアを睨んでいる。
クリス様は話すことを諦めたのか完全に聞き手に回っている。
これではダメだ。
「ちょっと失礼しますね」
無作法なのは100も承知で私はグロリアを立たせて一旦お茶会の会場から連れ出した。
「あ、あの、お姉様。どうかされましたか?」
この餓鬼、マジでぶん殴ってやろうかしら。
「どうかしましたかではないわ!どうかしすぎているのよ」
「えっ?」
「お茶会に出すお茶の情報も頭に入っていなければ会話するつもりさえないのかしら?」
「そんな、私は」
「いい、最低でもお茶会に出す物の種類や生産場所などは頭に入れておきなさい。
そうでなえればあなたはお客様に何かも分からないものを出していることになるのよ。
これ程失礼なことがありますか!もしこれが王族に連なる者や高位の者であった場合、ただではすまないのよ。
階級が上がるほど毒殺に対する警戒が強くなるのだから。
それに先程から聞いていたら何ですか?
ロイ様やクリス様が気を利かせないと成り立たないお茶会ならしなくて結構。
あの方達だって暇ではないのよ!
これはあなたの為でもあるのよ」
「・・・・・頼んでない」
「だったら今すぐ修道院に行きなさい!もしくは除籍してもらって平民として過ごすことね。
お茶会はそれを回避する為のものよ。
あなたが婚約者を選ばなければいけないの」
「あの方達は伯爵令嬢としての私しか見ていなわ。私個人を見ているわけではないのよ。
伯爵家との繋がりが欲しいから私と結婚をするのでしょう」
・・・・・・どうしてこの子はこんなにもバカなのかしら。
一層私がこのお茶会をダメにしてしまおうかしら。
「それが何だっていうの?そんなの貴族の結婚なんだから当然じゃない」
結婚と恋愛は別という考えが貴族の中で根付いているように貴族では家同士の利益を優先して夫婦になる。
結婚はビジネスだと考えているのだ。
貴族の結婚とはそういうものだ。物語のような結婚ができるのは平民だけ。
虚しいかもしれないし、おかしいことなのかもしれないみんな割り切って結婚しているのだ。
「自分自身を見て欲しい?笑わせないでよ。
自分なんて持っていないじゃない」
「・・・・ひどい」
この子、『ひどい』という言葉しか知らないのかしら。
語彙の少なさに最早笑いさえを起こってくるは。
「泣く暇があったら自分から話題を広げるような会話をしなさい」
私を見上げてくるグロリアの目には涙が溜まっていたが私はそれを感情のない目で見つめた。
「分かったら戻るわよ」
私は引っ張ってグロリアを戻した。
「君も苦労するね」というクリスの言葉を私は笑顔でスルーした。
そこからのグロリアは「みなさんは普段何をしているんですか?」と相変わらず蚊のなく声ではあるが聞くことができた。
まぁ、それしか聞けなかったが。
今回のお茶会は結局グエン様は最後まで会話には参加しなかった。
クリス様とロイ様は積極的にグロリア様に話しかけてはいたがだからといって媚びを売っているわけではない。
礼儀として相手をしている感じがヒシヒシと伝わって来た。
これ、多分みんなこの縁談を叶うのならお断りしたいと思っているんだろうな。
でも、伯爵に頼まれた手前できないといことだ。
私もミロハイト侯爵に縁談を持ち込まれて断れなかったし、まぁ結局婚約は破棄されたけど。それと全く同じ状況だ。
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