bryonia

朱路ユキマ

旅の終わり

 きつく抱き締めてすすり泣きだした、たった一人の『兄弟』を、クーノは優しく抱き締めかえす。

「ごめんね、キルシウム。……随分と、あなたを待たせてしまった」

 クーノの頬にも、ほろりと一筋の涙が伝う。

 穏やかな陽の光が差し込む部屋の中は、二人の泣き声だけが響いていた。


「クーノさん、お帰りなさい」

 二人が泣き止むまで静観をしていたサイトが、ようやく控えめにクーノに声をかけた。

「ただいま、サイトさん」

「……クーノさん。あなたの旅路は、一体どういうものでしたか?」

 あの頃と変わらない優しい笑顔で、柔らかい声で、邸の主人は静かに問う。

「……長い、長い旅だったよ。楽しくもあったし、悲しくもあった。……でも、」

 クーノは言葉を切り、自らの腕の中で泣き疲れて眠る兄弟に視線を落とす。

「私が本当に求めていたものは、ずっと……。こんなにも近くにあったんだよね。こんなに簡単な話だったのに、それに気づくのが……遅すぎた」

 馬鹿だよね、とクーノは呟く。

「私は」

 サイトはゆっくりと首を振ると、真っ直ぐにクーノを見つめた。

「私は、クーノさんは馬鹿な人だとは思いません。随分と回り道をしたかもしれない。けれど、あなたは自分自身で『答え』を見つけたではありませんか」

「サイトさん……」

 ぱちり、と目が合うと、サイトはふわりと花が綻ぶ様な笑みを浮かべる。

「クーノさんの歩んできた『みち』は、とてもかけがえのないものだったんだと、私は思います」

「へーぜるモソウ思イマース」

 今までだんまりを決め込んでいた、クーノの旅の相棒ヘーゼルが可愛らしい少女の様な機械音声でサイトに同意した。

「へーぜるハ楽シカッタデスヨ。くーのト共ニ走ッテタ時間。モウへーぜるモ廃車寸前! ト言ッテモ過言デハ無イ程ニおんぼろデスケレド、マダ、マダマダくーのト沢山、走リタイクライニ!」

「ヘーゼル……」

「くーの。くーのノ旅ガ終ワッテモ、時々デ良イデスカラ……。へーぜるト一緒ニ色ンナ街ヲ、平原ヲ、砂利道ヤ急勾配ダッテ頑張ルノデ、マタ走リマショウネ!」

 人工知能が搭載されたバイクであるヘーゼルの言葉は、いつも通りの無機質な機械音声の筈だったが、泣いている様に聞こえた。

「うん。……約束」

「絶対、デスヨ! へーぜるガイツカ駄目ニナルマデ……。へーぜるトくーのは相棒デスカラネ!」

「うん……、もちろん、ヘーゼルは私の大切な相棒だよ……!」

 再び涙を流し出したクーノに、手触りの良いハンドタオルをそっと手渡して、サイトは邪魔してはいけないな、と微笑みながら温かいお茶を淹れにキッチンへと歩を進めた。

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