第700話、わたくし、死と再生のヴァルプルギスですの♡(廻天編)
──聖レーン暦2681年5月。
ヌロンイ半島『南ライトエルフ王国』首都、セクハラ市長魂特別市『ジーレ』。
今年はこれまでに無く幸運にも、平穏無事に4月を終え5月を迎えることができ、主な住民であるライトエルフたちは、皆笑顔を輝かせていた。
さすがは世界随一の、『反皇国』国家である。
確かに毎年『ヴァルプルギスの夜』には魔女たちが、東方海上に浮かぶ弓状列島『ブロッケン皇国』から侵出してきて、エイジア大陸東岸部において猛威をふるっており、今年は無事に済んだことは喜ぶべきであろう。
ただし魔女たちは主に、特権階級であることにあぐらをかき、平民や少数の他種族の者たちを搾取弾圧している為政者を、現地のレジスタンス組織と協力して、テロ活動と言うある意味『世直し』をやってくれているようなもので、むしろ一般市民からしたら『ヒーロー』扱いしてもおかしくは無いはずであった。
それなのに、魔女たちが一夜にして大量自殺をして全滅したと聞いても、
──なぜなら、ライトエルフという種族は、一人残らず、プライドだけは山よりも高かったのだから。
かつてのエルフ族にとって、残虐非道であり『世界の敵』そのものである魔女は、間違い無く『救世主』とも呼ぶべき存在であった。
長命でいつまでも若々しく知能も高いエルフ族であるが、むしろ長命であるがためか生殖能力が著しく乏しく、
それでもポテンシャル的には
──だがしかし、極一部の『支配層』にとって、それは非常に都合が悪かったのだ。
なぜなら、『知能の高い奴隷』なんて、いつ自分たちに反旗を翻すかわかったものでは無く、厄介極まりないのだから。
そこで支配者たちは、自分たち両班以外の者には文字の読み書きさえ禁じて、これまで通り半裸同然の原始的生活を強いて、余計な知恵をつけないように細心の注意を払い、未来永劫
しかも救いようが無いのは、そんな平民たちですらも、ライトエルフとしての選民意識が高く、他種族はもちろん同じエルフ族であるダークエルフに対しても、差別や弾圧や搾取を平気でやるといった始末であった。
それでも80年ほど前に、やっと永き魔女の支配から解放された際には、少数ながらも世界平和と全種族平等に目覚めた者もいて、半島の最南端を舞台にダークエルフとの統一国家建設運動を起こしたところ、せっかく取り返した自分たちのためだけの支配権を維持するために、両班どもが徹底的な弾圧に乗り出し、ライトエルフかダークエルフかを問わず、反乱分子を全員虐殺してしまったのだ。
これに怒り狂った半島北部を根城とするダークエルフの大軍勢は、仮の国境線だった38度線を突破して、新生『ライトエルフ共和国』の首都ジーレ特別市を瞬く間に制圧するや、その余勢を駆って半島南部のほとんどを支配下に置くに至った。
比較的魔女に近い思想を有するダークエルフ族は、質実剛健で武力を尊ぶものの、自分たちが長年虐げられてきたこともあって、エルフ族全体としての『民族融和』を原則にしており、戦争終結の後は平等な共産主義的政権を打ち立てようとしていたところ、脳死レベルの選民主義者であるライトエルフ側としては、
そんな選民思想に凝り固まっているライトエルフたちが、魔女たちに支配されていた『半島強占時代』を屈辱に思わないわけが無かった。
それは支配層の両班だけでは無く、平民の未就学児童に至るまで、栄光なるライトエルフである自分たちが他種族に屈していた事実を認めることなぞ、
分断国家でありながらも、それなりに文化的に発展を遂げた現在においても、全国民をあげて『反皇国教育』に血道を上げて、老若男女のすべてが常に、魔女への憎しみの火を絶やすことは無かった。
そんな彼らが、魔女たちが全員自殺して朽ち果てたと知ったのである、国を挙げてお祭り騒ぎになるのも当然であろう。
事実、『ヴァルプルギスの夜』以来初めての休日である、本日の首都ジーレの繁華街においては、どこも大混雑の大盛況となっており、共和国民の誰もが輝くような笑みで満ちあふれていた。
──『その女』が、現れるまでは。
「……お、おい」
「何だ、あれは?」
「ママー、怖いよお!」
「しっ! 目を合わせてはダメよ!」
唐突に時ならぬ喧騒に包まれる、大通りの一角。
それも、無理からぬことであった。
『……うう……ああ……ぐうう……うああ……』
止めども無く漏れいずる、不気味なうめき声。
顔を完全に覆い隠すフード付きの、ボロボロにすり切れた漆黒のマント。
枯れ木のように痩せこけた、わずかに見える素肌。
──そして、女性のものと思われる肢体や衣服のすべてを覆い尽くしている、赤黒い血痕。
「……何よ、あれ?」
「フードから長耳が飛び出ていないところを見ると、エルフでは無く、
「と言うことは、神聖帝国『ёシェーカーёワルド』からの流れ者か?」
「──いや、ちょっと待て!」
「あいつの体内からにじみ出ている『魔法波動』、どこかおかしくはないか?」
「魔法波動、って?」
「……あ……あ……あ……あ」
「まさか、まさか、まさか、まさか──」
「「「『負の』魔法波動?」」」
「──うわあああああああああっ、
「逃げろ、逃げるんだ!」
「どうしてこんな街中に、魔女なんかいるんだ⁉」
「あいつらは、全滅したんじゃなかったのか?」
「それともどこかの強制収容区から、逃げ出してきたとか?」
「いいから走れ、負の魔法波動が、どんどん増大しているぞ!」
急転直下の最悪の事態の到来に、慌てて蜘蛛の子を散らすように逃げ出すエルフたち。
しかし、時すでに遅かった。
──次の瞬間、大音声と大閃光とともに、繁華街そのものが消滅したのであった。
☀ ◑ ☀ ◑ ☀ ◑
「……さすがだな、『ワルキューレ3』アルテミス=ツクヨミ=セレルーナ。まさか大量自殺した魔女の屍体を『ゾンビ』として甦らせて、体内の負の魔法波動を暴走させて、『大規模同時多発自爆テロ』を行わせるとは」
東エイジア大陸最大の
しかし、その手放しの賞賛の言葉に対しても、目の前の年端もいかない銀髪金目の絶世の美少女は、何の感情も示さなかった。
「同志司令官、お褒めに与り光栄です。しかし、無数に残存している魔女の屍体の有効利用としては、これしきのこと、誰でも思いつくのでは?」
「いやいやいや、謙遜する必要なぞ無いぞ! 『魔女のゾンビを自爆兵器として利用する』なんて、『なろう系』Web小説どころか、エロゲのシナリオライター兼超有名魔法少女アニメの脚本家の先生様でも、到底思いつかないだろうよ!」
「一見使いようの無いただの死骸のように見えて、魔女であるからにはその体内には、莫大なる『負の魔法要素』が蓄えられていますからね。『爆弾』として起動させれば、『あちらの世界』における『核兵器』同然の効果が見込まれるでしょう」
「そのぶっ飛んだ発想こそが重要なんだよ! それも世間ではいまだ小学校に通っているような年頃だというのに! いやあ、さすがは神の恩寵の具現たる『魔法少女』、期待以上の働きだ!」
「──はっ、我ら帝国特設『魔法少女隊』は、帝国のため、解放軍のため、そして何よりも
そのように言い放つや、右腕を高々と斜め上方に挙げる解放軍型敬礼をして、退室する司令官を見送る、『ワルキューレ3号』と呼ばれた魔法少女。
その唇を密かに、嘲笑の形に歪ませながら。
残念なことにも、歴戦の
彼女自身が、『魔女の転生者』であることを。
──そう、たとえ(某革新的な『魔法少女アニメ』みたいに)魔法少女が魔女になることがあろうとも、魔女が魔法少女として生まれ変わるなんてことが、まさか本当にあり得ようとは。
そして何よりも、実はヌロンイ半島のみならず、すでにこの帝国内の首都を始めとする重要拠点のほぼすべてに、『真の同志』である他の魔法少女たちの協力の
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