第563話、わたくし、『ハ○ヒ』に『後期クイーン問題』はベストマッチだと思いますの♡(前編)

ちょい悪令嬢「さて、かねてより宣言していた通り、現在話題騒然となっている、およそ9年半ぶりの新刊、『涼宮ハ○ヒの直観』を読了いたしました!」




メリーさん太「──やっとかよ⁉」




ちょい悪令嬢「……危ないところでした、田舎の本屋なので大丈夫だと思っていたら、本作の作者の来店時点ですでに、四冊しか残っていないなんて」


メリーさん太「いくら発売日にタイムラグがあるからって、グズグズし過ぎなんだよ⁉」


ちょい悪令嬢「まあまあ、その後寝食も忘れて約300ページもの大長編を、一夜で一気に読み終えたくらいですし、本作の作者も長年のガチの『ハ○ヒファン』として、心から待ちわびていたのは間違い無いのですから」


メリーさん太「ああ、まあな…………それで、どうだったんだ? 肝心の中身のほうは」


ちょい悪令嬢「それがですねえ、中身と言うと」


メリーさん太「中身と言うと?」




ちょい悪令嬢「やっぱり、谷○流先生は、谷○流先生であられましたわ!」




メリーさん太「………………………………へ?」




ちょい悪令嬢「おや、ピンと来ないようでしたら、『ハ○ヒはやはり、ハ○ヒでしたわ!』と、言い換えてもよろしくてよ?」


メリーさん太「………………ええと、それって一体、どういう意味なの?」




ちょい悪令嬢「それがですね、今回の『直観』についての読者様方の感想において、『あまり谷○先生らしくなかった』とか、『ハ○ヒの皮を被った、作者の個人的な趣味の作品』とか言った、ややもすると否定的な意見も少なく無く、読むのが不安になったのですけど、実際に読んでみると、まさしく『そんなことは無かったぜ!』だったのでございます! 確かに書き下ろし長編に関しては『ミステリィ色』が強かったけど、その文体といい、キャラ同士の掛け合いといい、『これぞハ○ヒ!』といった感じで、長年のファンとしては大満足でした!」




メリーさん太「ああ、そう言うこと……」


ちょい悪令嬢「ほんと『アンチ』って、浅はかですよね。何でも頭ごなしに『否定』から入ろうとするんだから。例えば大人気ラノベ作品の『よ○実』なんかに対しても、『こ○ラノ』においてベスト3に入る超傑作だというのに、やみくもに批判ばかりして。はっきり言ってこの作品て、本作の作者の趣味ではありませんけど、その『面白さ』については、全面的に支持いたしますわよ!」


メリーさん太「──わかった、わかったから、どさくさに紛れて他の作品を絡めて、『アンチ叩き』なんかを始めたりせずに、ちゃんと『直観』の感想を語って参りましょうよ⁉ ……それで、まずは一読してみて、どんなファーストインプレッションを受けたんだ?」




ちょい悪令嬢「もちろん、前回お知らせしたように、『後期クイーン問題』ですわ!」




メリーさん太「──もろ、ミステリィじゃないかよ⁉」




ちょい悪令嬢「うふふふふ、『後期クイーン問題』は、ミステリィであるだけ、実は『メタ』でもあるのですよ♫」




メリーさん太「……メタ、だと?」


ちょい悪令嬢「ね、『ハ○ヒ』シリーズにとっては、お似合いでしょう?」


メリーさん太「つうか、そもそも『後期クイーン問題』って、何なんだよ? それを読者様に対して、詳しくご説明するのが先決だろうが?」


ちょい悪令嬢「そうですね、少々長くなりますが、まずは本作の作者の別作品である『最も不幸な少女の、最も幸福な物語』において、『後期クイーン問題』について非常に詳細に解説している部分を、ご覧いただくことにいたしましょう、




「実を言うとね、ミステリィ小説なんてものは、不完全な存在でしかなく、いくら作者が、『今回の事件は完全に解決しました』と宣言しようが、もしかしたら作品内には登場しなかった真犯人が存在しているかも知れないし、作品の完結後にすべてを覆す新たなる決定的証拠が出てくるかも知れないし、犯人が真の動機を隠し通すために嘘の告白をしていたかも知れないし、そもそも名探偵による名推理自体に重大なる過ちが存在しているかも知れないし──等々といった、『実は作品世界のにこそ、真相や真犯人が存在し得る可能性はけして否定できない』とする、アメリカの誇る著名なるミステリィ作家エラリー=クイーンが、主に作家人生の後半期に発表した作品群において、最も重要なるテーマとした、俗に言う『後期クイーン問題』が常に付きまとってくることになるんだ。これはひとえにミステリィ小説というものが、『作家』という一個人によって、被害者から加害者からそれらを操っている陰の黒幕から証拠からアリバイから最終的真相から──ひいては作品世界そのものに至るまで、すべて創り出されているがゆえに、当然のごとくその筋道ストーリーや世界観が固定的かつ限定的にならざるを得ず、最終的結論たる『真相と真犯人』を始め、すべてが最初から決定づけられてしまい、原則的に無限の可能性を有し、誰もが被害者にも加害者にもなり得て、『真相と真犯人』も二転三転していき最後の最後まで決定することのない、現実世界との乖離がどうしても生じてしまいかねないんだよ。それというのも後期クイーン問題で言うところの、『作品の外側に存在し人知れずすべてを操っている真犯人』とは、まさしくその作品の『作者』自身に他ならないのであり、小説というものはどうしても作者の創作意図や能力の範囲内に限定されて、当然のごとく作品内に記された『真相と真犯人』に固定されてしまうけど、無限の可能性を秘めた現実世界においては、『真犯人』となる可能性が事件関係者全員にあるのはもちろんのこと、その道筋ストーリーも理論上無限の分岐があり得て、けして小説のように一本道では無く、結末たる『真相』も当然たった一つではなく、様々なゴールを迎える可能性があるんだ。つまりいくらミステリィ小説において主人公にしてたる『名探偵』が、あたかも全知そのものの推理力を持っていようと、後期クイーン問題──ひいては、この現実世界には無限の可能性があり得るとする『量子論』に則れば、『真相や真犯人』というものには常に無限の可能性があり得て、ミステリィ小説という一つの作品が完結した後でも、新たなる『真相や真犯人』が判明する可能性はけして否定できないゆえに、せっかく全知そのものの推理力を有しているのなら、どこまで行っても確定できない『真相や真犯人』なぞを追い求めるよりも、その時点その時点における被害をすべて未然に防止するといった、『リスク回避』にこそ役立てるべきだということなのさ。もちろん君が言うように幸福な予言の巫女としての全知の力に加えて、僕が有しているという『作者』としての全能の力を合わせれば、一つの事件のすべての過程を『リスク回避』すらも含めて完璧にコントロールできるどころか、この現実世界のすべてを現在過去未来を問わず意のままにすることだって可能かも知れない。しかしそれでは僕はまさしくミステリィ小説における最大の禁忌的存在たる、『作品の内側に存在する作者』そのものになってしまうも同然なんだ。ただでさえ普通に作品のにその小説セカイのすべてを生み出し操っている『作者』が存在しているだけで、後期クイーン問題などという致命的欠陥が生じてしまうというのに、よりによって作品のに『作者』自身そのものを存在させてしまったんじゃ、もはや後期クイーン問題すら比較にならないほどの支離滅裂な状況にだってなりかねないだろうよ。何せ言わばそれは全知全能の存在を──まさしく『おとぎ話なんでもありの神様』を、この現実世界の中に登場させるようなものなんだしね。言うなればミステリィ小説世界内におけるミステリィ小説家とは、あたかもテレパスそのままに登場人物全員の心を読めて、予知能力者そのままにこれからの行く末ストーリーをすべて知り得て、回想シーンや未来予想図の名を借りて過去や未来へのタイムトラベルすらもなし得て、更にはほんの気まぐれに『改稿』という形でホワンロン等のいわゆる『夢の主体』そのままに、世界そのものを現在とはまったく異なる『別の可能性の世界』へとルート分岐させて、そっくりそのまま入れ替えたりもできるといった、まさに小説的世界においては絶対無敵の存在なのだから。──君には、わかるかな? 自分のすぐ隣にいる人物が、己の運命や生死はおろか、世界そのものを左右できるという恐ろしさが。言うなれば創造主である『作者』自身が一登場人物として自作の中に存在しているということは、その世界自体がミステリィ小説家という、残酷な神に支配されているようなものなのだよ。よって全知とか全能とかを問わず、人並み外れた超常の力を有しているのなら、『リスク回避』にこそ活用してすべての被害を未然に防止し、事件そのものを起こさないようにすることこそが、現実問題としてももちろん、後期クイーン問題を完璧に解消して真に理想的なミステリィ小説を実現する意味からも、唯一無二の『正解』なんだ。このことについては、まさしく今回の事件によって如実に証明されたようなものであり、たとえ君の全知の力によって現実世界と小説の世界とを完全に一致シンクロさせて、僕を真の『作者』として目覚めさせたところで、何の意味も無いんだよ。しかしそれに対して、本来君のような完全なる全知の力を持つ者にとっては、蔑みの対象でしかなかった、不幸な予言の巫女たるの、不幸な未来の予知に限定された──すなわち、力によってこそ、未来のあらゆる局面において当然のように存在し得るリスクを事前にすべて潰すことで、こうして今回の事件そのものを無効化することが達成できたってわけなんだ」




 ……と言った、次第でありますの☆」




メリーさん太「──長いよ! 本当ガチに、長すぎるよ!」




ちょい悪令嬢「いやほら、下手すると『ネタバレ』になりかねないから、あまり『直観』そのものに触れることができませんので、あくまでも本作の作者の独自見解を、ご紹介したわけなのです」


メリーさん太「ネタバレ防止って…………つまり、『直観』に書かれている内容とは、それなりに違いがあるって言うのか?」


ちょい悪令嬢「ただし最後のほうの、『──君には、わかるかな? 自分のすぐ隣にいる人物が、己の運命や生死はおろか、世界そのものを左右できるという恐ろしさが。言うなれば創造主である『作者』自身が、一登場人物として自作の中に存在しているということは、その世界自体がミステリィ小説家という、残酷な神に支配されているようなものなのだよ』については、ほぼ同じような記述がございましたけどね」


メリーさん太「『物語の中にいる、『神様同然の存在』、って⁉」




ちょい悪令嬢「そう、ハ○ヒ嬢、その人ですわ」




メリーさん太「──ッ」




ちょい悪令嬢「いやあ、まさか『後期クイーン問題』においてまで、これほど見事に一致シンクロしてしまうとは、驚きでしたわ」


メリーさん太「……と言うことは、『直観』における『後期クイーン問題』も、大体こんな感じだったのか?」




ちょい悪令嬢「いいえ、むしろ『真反対』だったのですわ!」




メリーさん太「──はあ⁉ 何だよ、真反対って?」


ちょい悪令嬢「それについては、次回詳しくご説明いたす予定です♡」




メリーさん太「おまっ、こんなところで引っ張るのかよ⁉」

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