第376話、わたくし、ソビエト空軍の偉大なるSS大佐ですの。(その7)
『……ぐっ、こ、こちら、ワルキューレ1! み、みんな、聞いてくれ! 何だか記憶が混乱していて、わけがわからない状態だと思うが、このように視界が完全に塞がれたままだと、お互いに衝突の危険性が高い! よって各機それぞれ飛行高度に差をつけると同時に、「三軸オートパイロット」に操縦を切り替えて、その場で水平旋回飛行をされたし! なお、それぞれの配置は、私ことワルキューレ1を、高度1万メートルとし、以下隊員番号順に、500メートルずつ下位とする!』
『『『「──ら、らじゃ!」』』』
この異常事態も2回目とあって、少しは慣れてきたのか、どうにか気を取り戻すことに成功したらしい、ヨウコちゃんの的確なる指示に応じて、慌てふためいて行動を起こす、現在無数の烏によってキャノピーを塞がれて視界を完璧に失ってしまっている、
──そうなのである。
例えば、自国の領空内に敵国の偵察機等が侵犯した場合においては、高速で飛行する敵機を目視で捉えてから離陸しても到底間に合わないし、そもそも迎撃機が存在する基地の周辺の空域を通過するとも限らないので、まずは管轄空域を広く常時監視している『管制所』より「
ちなみに、現在
そして定位置についた後は、視界を塞がれたままその高度で旋回行動に移るわけだが、これについてもすでに述べた、『あちらの世界』における第二次世界大戦中のドイツ第三帝国ですでに実用化されていた、『三軸(=前後&上下&左右のバランスを維持する)オートパイロット』機能を使用すれば、パイロットが操縦桿を握る必要も無く、自動で水平飛行をし続けてくれるのだ。
実際、
『──はーい、アルテミスさん、覚悟は決まった?』
この異常極まる状況において、むしろ不気味なまでに朗らかな声音が、ヘルメット内蔵のヘッドフォンから聞こえてきた。
「……メア、ちゃん」
それは同じ『ワルキューレ隊』の仲間であり、現在
『ふふ、さすがはヨウコさんね。実のところは尚武の国「メツボシ王国」の現女王にして、希代の悪役令嬢だけはあるわ。今まさに精神的に大混乱を来しているというのに、
「……本当に、ちゃんと全部
『それは無理ね、だって私はあくまでも、「観察者」なのだから』
「──っ」
……何よ、観察者って?
本当のところは、自分だけ『部外者』的立場にいて、
──この世界そのものを、『実験場』として仕立て上げたという、聖レーン転生教団みたいに。
『おっと、誤解しないでよね、「観察者」と言っても、私は教団みたいに「実験」の実行側というわけでは無く、あくまでも中立の「オブザーバー」という意味ですからね?』
「……オブザーバー、って?」
『だから言ったでしょ? 私はむしろあらゆる世界の平穏を守る立場にあって、教団の実験によってこれ以上事態が深刻化するようなことがあれば、この世界そのものを「失敗作」と認定して、食べてしまって「無かったもの」とすることを使命とする、「夢喰らいの
──‼
「い、いや、世界そのものを食べちゃったら、あなた自身だって困るでしょうが? それにそもそも、世界というものは、物理的に改変することができず、最初から数が決まっていて、増やしたり減らしたりなんて、不可能だったんじゃないの?」
『それができるからこそ、私たち
……………………………………あ、あれ?
ほ、ほんとだ、おっしゃる通りだ!
「すごい! この世界を夢ということにするだけで、これまで量子論や集合的無意識論に則って述べていた『大原則』が、全部無効化されてしまうじゃないの⁉」
『あ、いえ、無効化はしていないわよ? むしろ量子論にしろ集合的無意識にしろ、「この世界は実は夢かも知れない」論こそが、基本じゃないの?』
「はあ?」
『それと言うのも、この世界が夢かも知れないことは、何者であろうとけして否定できないのだから、私たちは誰でも夢から覚めて、「真の現実世界」へと覚醒する可能性があるけど、「他人になってしまう夢」なんか普通に見ても別におかしくはないので、目が覚めた時の「自分」が、今こうしてここにいる「自分」とは限らないでしょう? ──そう、まさしく、ほんの一瞬後の形態や存在位置に無限の可能性があり得る、「量子」同然にね』
……あ。
「そ、それって、結局は自分自身こそが、『この世界を夢として見ている主体』と言うことなの⁉」
『一見そのように思えるけど、実は違うの。いわゆる「夢の主体」とは、別にこの世界だけではなく、文字通りありとあらゆるすべての世界を夢として見ていることになっているんだけど、そんなものは実際に存在し得るはずがなく、むしろそういった超越的存在がいるかも知れないと
「……あーそれって、『異世界転生』イベントにも言えるわ。ただ単に生粋の異世界人が『現代日本人になってしまう夢』を見ただけなのに、自分のことを現代日本人の生まれ変わりだと思い込むことによって、事実上の異世界転生を実現したりしてね」
『そうそう。──しかも、すべての世界を夢として見ているとしたら、そこに含まれているすべての存在の「記憶と知識」を知覚することも、論理上は不可能ではなくなるのだから、「夢の主体」の「記憶と知識」こそが、ありとあらゆる世界のありとあらゆる時代のありとあらゆる存在の「記憶と知識」が集まってくるとされる、「集合的無意識」そのものとも言い得るわけなのよ』
「何と、量子論だけでなく、あのオカルト理論として、本場の心理学界においてもいまだ誰も正式な理論付けを為し得ていない、集合的無意識までもが、『この世界自体が夢であり得る可能性がある』理論に則れば、その実象をある程度浮き彫りにすることができるとは⁉ ──ということは、まさしくあらゆる世界を夢ということにできるという、あなたたち
『あはは、私なんかが「神様」とか、間違いなく過言よ。言ったでしょ? 本物の「夢の主体」なんて存在したりはせず、仮想的な存在でしかなく、私たち
「……力の、性質上、って?」
『さっきも言ったように、
「──ショゴスと同様って、そ、それって、まさか⁉」
『そう、「負の魔導力」よ。私の力とは、負の魔導力を極限まで高めることによって、世界そのものの形を失わせて夢幻とすることであって、烏たちの攻撃を抑えるどころか、後押しすることになるだけなの』
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