第204話、わたくし、『異世界転生型ヤンデレ』なら、クレイジーサイコレズなメイドさんもアリかと思いますの。
──アルテミス=ツクヨミ=セレルーナお嬢様。
──聖レーン転生教団直営の、『魔法令嬢育成学園』5年D組所属の、チーム『魔法令嬢、ちょい悪シスターズ』のエースメンバー。
──そして私こと『使い魔』の、メイ=アカシャ=ドーマンにとって何よりも大切な、可愛い可愛い『海底の魔女』。
……ああ、お嬢様、心から、愛しています。
もちろん、世界中の、誰よりも、ずっと……。
──なのになのになのになのになのになのになのになのになのにいいいッ!
ちょっとした行き違いのために、それ以来お嬢様が、私のことを避け始めてしまうなんて!
……そ、そりゃあ、私は『使い魔』でありながら、御主人様である、『魔法令嬢』の意に添わぬ行為をいたしましたよ?
あれが出過ぎた真似であったのは、重々承知しておりますよ?
しかし、ちゃんとそれなりの『理由』がございまして、頭から否定されるいわれも無いのです!
そもそも『魔法令嬢』と『使い魔』とは、心身共に切っても切れぬ、唯一無二の『パートナー』なのであり、少々の行き違い程度で、その絆が断たれることなぞ、あってはならないのです!
……ああ、それなのにそれなのにそれなのにそれなのにいいい……ッ!
──お嬢様ったら、あんな深海棲種もどきの、『エセ人魚姫』なんかに、
☀ ◑ ☀ ◑ ☀ ◑
……見られている。
さっきから、ずっとずっとずっと……。
──物陰から、こちらのことを、睨みつけるようにして。
「……アルテミスさん」
「うん、なあに、アグネスちゃん?」
「あなたの『使い魔』さんが、しきりに私たちのほうを、見ているのですけど?」
そう言って、私がこっそりと指さすほうには確かに、桜の木の幹に半身を隠して、昼食後に学園の中庭を散策していた、私たち──いえ、
「……ああ、メイのことなら、別に気にする必要はないわよ」
「えっ、どうしてですか? あなたとメイさんとは、単なる『魔法令嬢と使い魔』としてではなく、もっと深い絆で結びつかれていたのでは?」
「──あはっ、何言っているのよ? 今一番私と深い絆で結ばれているのは、他でもなく、教室でも寄宿舎でもずっと一緒にいる、アグネスちゃんじゃないの♡」
そう言って、私の右腕に抱きつくようにして、更に身を寄せてくるクラスメイト。
──ギリッ!
ひいいいいいいいいいいいいいっ⁉
突然鳴り響いた歯ぎしりの音に、つい目線だけを向けてみれば、メイド少女が歯を食いしばりながら、血の涙を流していた。
「──ちょっ、アルテミスさん、放してください! これ以上あなたたちの諍いに、巻き込まれるのごめんです!」
何なのあの、クレイジーサイコレズな、ヤンデレメイドさんは⁉ ガチで私に向かって、怨嗟の念を送っているじゃないの!
そんなにお嬢様が
アルテミスはアルテミスで、自分の『使い魔』ぐらいちゃんと、飼い慣らしておきなさいよね!
そんな私の胸中での罵声が聞こえたわけでもあるまいに、なぜだか唐突にうつむき表情を曇らせる、級友の少女。
「……ごめんね、アグネスちゃん」
──え。
「あ、あの、別に私は、わかってくだされば、それで……」
あまりに急な、真摯な態度への豹変に、しどろもどろになってしまう私に対して、
──その『天然ボケ幼女』は、いよいよ本領を発揮し始めた。
「アグネスちゃんのこと、『ほっ○ちゃんモドキ』なんて言っていたけど、全然違っていたね、むしろ『潜○幼女ちゃんモドキ』と、呼ぶべきだったよね」
………………………………は?
「な、何ですその、『潜○幼女』って? ──いやもちろん、私は『ほっ○ちゃん』でも、ありませんけど!」
「ほんと、この作品の作者ったら、『にわか』のくせに、知ったかぶりばかりするものだから、こんなことになるのよ。確かにアグネスちゃんは、全身真っ白で瞳だけ紅いから、『ほっ○ちゃん』そのものだけど、その幼女ながらも常に冷静沈着なクールぶりは、むしろ『潜○幼女』そのものじゃない。何でこんな凡ミスをするかねえ。まさにこれぞ、ちゃんとゲームそのものをやったことないくせに、二次創作にばかりかぶれる、『エアプ』の典型よねえ。……まあ、そのお陰で、アグネスちゃんの造形が、『艦○れ』や『アズ○ン』のパクリではないことが証明されたわけなんだけど、深海○艦マニアとしては、完全に失格とも申せましょう」
「──あなたが何を言っているのか、僕もう、わけがわからないよ!」
とにかく、いきなり『メタ』に走るのは、やめていただきたい!
「あ、でも、アグネスちゃんだって、全身真っ白で、瞳だけが紅くて、そのネタをやったら、この業界で最も性悪な、某『使い魔』みたいになっちゃうよ?」
……それは、大変失礼いたしました、きゅう〜。(某使い魔は、そんな鳴き方をしない)
そのようなまったく意味の無い、メタ合戦をやっていた──まさにその刹那であった。
「──おおーい、アルテミス!」
突然の呼び声に振り向けば、こちらへと駆けつけてくる、四つの人影。
「……ヨウコちゃんに、みんな、そんなに血相を変えて、一体どうしたの?」
そうそれは、アルテミス以外の『魔法令嬢、ちょい悪シスターズ』メンバー全員の、ご登場であった。
「──『悪役令嬢』や、また新たな個体が、出よったんや!」
「何ですってえ⁉」
「保健医のミルク先生の話だと、すでに夢の中に閉じ込められている被害者が、十名以上も出ているんだって!」
「じゃあ、すぐに私たちも、
「ええ、すでにミルク先生が、保健室で待機なされているわ!」
「──ようし、一刻も早く、『悪役令嬢』を懲らしめよう!」
そう力いっぱい宣言するや、他のメンバーたちと一緒にこの場を後にする、アルテミス嬢。
……それと同時に、こちらの
「──ねえ、あなた一体、どういうつもりなの?」
「……どういうつもりって、むしろこちらの台詞ですけど、『作者』さん?」
私のあまりに予想外の『返し』に、途端に顔色を変える、他称『作者』のメイド少女。
「わ、私は別に、
「ええ、もちろん承知しておりますわ、『
「──っ。そこまで知っていると言うことは、やはりあなたも『教皇聖下』、ご自身というわけ⁉」
「ご冗談を。ここにいる『私』はあくまでも、土人形でできた『
「だ、だから、私は、そんなスケコマシ野郎じゃないと、言っているでしょう⁉」
「それは、失礼。──でもあなたが、ゆりゆりヤンデレ的に執着なさっているのは、果たしてあの、アルテミス=ツクヨミ=セレルーナご本人なんでしょうかねえ?」
「──‼」
とても可憐なメイドさんと年端もいかない幼女とは思えない、緊迫感をまき散らしながらにらみ合う、二人の『仕掛け人』。
「……どこまで掴んでいるか知らないけど、下手にちょっかいを出されると、手痛いしっぺ返しをくらうだけですよ?」
「そちらこそ、我々教団を利用しているつもりで、いい気になり過ぎて、思わぬ落とし穴にはまらないよう、十分ご注意をなさったほうがよろしくてよ?」
そのように、第三者が聞いてもまったく意味不明な捨て台詞を言い合うや、同時に踵を返して離れていく、二つの影。
……ふん、一体何を企んでいるかは知らないけど、今やこの世界は、完全に我らが教団の手の内なのだ、半端物の『作者』ごときが、何ができるものか。
そのように心の中で、嘲り笑っていた私であるが──
まさか彼女の真の目的が、『作者』として世界を創造するどころか、むしろ己の最も愛する者への執着心のために、世界そのものを壊してしまおうとする、「ヤンデレここに極まり」としか言いようのない、歪んだ欲望に基づくものなんて、思いも寄らなかったのである。
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