第160話、わたくし、『魔法令嬢、ちょい悪シスターズ』になりましたの!(その8)

「ヨウコ」


「ヨウコ」「ヨウコ」


「ヨウコ」「ヨウコ」「ヨウコ」「ヨウコ」


「ヨウコ」「ヨウコ」「ヨウコ」「ヨウコ」「ヨウコ」「ヨウコ」「ヨウコ」


「ヨウコ」「ヨウコ」「ヨウコ」「ヨウコ」「ヨウコ」「ヨウコ」「ヨウコ」「ヨウコ」「ヨウコ」「ヨウコ」「ヨウコ」「ヨウコ」「ヨウコ」「ヨウコ」




「ヨウコ」「ヨウコ」「ヨウコ」「ヨウコ」「ヨウコ」「ヨウコ」「ヨウコ」「ヨウコ」「ヨウコ」「ヨウコ」「ヨウコ」「ヨウコ」「ヨウコ」「ヨウコ」「ヨウコ」「ヨウコ」「ヨウコ」「ヨウコ」「ヨウコ」「ヨウコ」「ヨウコ」「ヨウコ」「ヨウコ」「ヨウコ」「ヨウコ」「ヨウコ」「ヨウコ」「ヨウコ」「ヨウコ」「ヨウコ」「ヨウコ」「ヨウコ」「ヨウコ」「ヨウコ」「ヨウコ」「ヨウコ」「ヨウコ」「ヨウコ」「ヨウコ」「ヨウコ」「ヨウコ」「ヨウコ」「ヨウコ」「ヨウコ」「ヨウコ」「ヨウコ」「ヨウコ」「ヨウコ」「ヨウコ」「ヨウコ」「ヨウコ」「ヨウコ」「ヨウコ」「ヨウコ」「ヨウコ」「ヨウコ」




 そこは全周、無数の鏡に囲まれた、閉じられた世界であった。


 しかし、それらの鏡面に映し出されていたのは、私ことヨウコ=タマモ=クミホ=メツボシではなく、同じ『魔法令嬢、ちょい悪シスターズ』の仲間の一人であり、現在『鏡の悪役令嬢』に囚われているはずの、アルテミス=ツクヨミ=セレルーナの、月の雫のごとき銀白色の長い髪の毛のみをまとった、処女雪そのままの純白の華奢な裸体であったのだ。




 あたかも天使か妖精すらも彷彿とさせる、人にあらざる縦虹彩の、黄金きん色の瞳。




「ヨウコちゃん」


「ヨウコちゃん」


「ヨウコちゃん」


「ヨウコちゃんは、いつもわたくしのこと、こっそりと見つめているよね♡」


「気がついていないと、思った?」


「女の子って、敏感なんだよ?」


「──あっ、ごめーん、ヨウコちゃんも、女の子だったっけ」


「何か、いっつも男言葉を使っているし、物腰もいかめしいし、『日本刀』型の魔法のステッキなんて持っているから、つい女の子であることを忘れてしまうんだよね」


「……もしかして、わたくしのことばかり見ているのは、わたくしがちっちゃくて可愛くて、いかにも女の子っぽいからだったりして?」


「人は自分に無いものに、惹かれるって言うもんね」


「ええー、もしかしてヨウコちゃん、わたくしのこと見つめているのも、ガチで『恋愛感情』だったりするんじゃないでしょうね?」


「いくら何でも、それはちょっと」


「ヨウコちゃん、美人だけど、わたくしのタイプじゃないというか……」


「せっかく女の子のことを好きになるのなら、男っぽい子よりも、女っぽい子のほうがいいしね」


「かといって、ヨウコちゃんが、いきなり女の子らしくなっても、気持ち悪いけどね」


「こらっ、そんなこと言っちゃ、駄目でしょうが?」


「あ、いけない、ごめんごめん(棒)」




「「「──あはははははは!!!」」」




 私を取り囲んでいる、全周の鏡面の中から響き渡ってくる、少女たちの嘲笑の嵐。


 けれども私は、少しも動ずることなく、落ち着き払って言葉を返した。


「……別に私は、そんなことを言われても、全然平気だぞ?」


「まあ、無理しちゃって!」


「こんな時でも、優等生面?」


「それとも、わたくしのこととか、眼中にないとか?」


「あんなに四六時中、『視姦』しといて、それはないよね!」


「「「──ぶわっはははははは!!!」」」




「……ああ、もちろんだ。むしろこのくらいのことで揺らいだりしないほど、私のアルテミス──いやさ、『アルたん♡』に対する愛は、本物だということなんだよ」




「「「…………」」」




 その途端、圧倒的な沈黙が、この超常なる空間全体を、支配した。


 ふふふ、私の『アルたん♡』への想いのほどを知って、感服しているな?


「……嘘、ガチじゃん、こいつ⁉」


「え、普段あんなに、素っ気ない態度を、とっているくせに?」


「おいおい、常に沈着冷静な『和風侍少女』だと思っていたら、『むっつり』だったのかよ?」


「しかも、何だよ、『アルたん♡』って⁉」


「人に、キショい『ペットネーム』を、勝手につけるなってえの⁉」


「……ねえ、わたくしたち、こいつの前に、裸で現れたのは、まずかったんじゃないの?」


「こちらの意図としては、『不気味さ』を演出したつもりだったけど、あいつにしてみれば、『サービスシーン』以外の何物でも無かったとか?」


「ずっとこっちを睨みつけていると思ったら、心のメモリーに録画していたわけね……」


「うわあ、ヤバいじゃん、それ」


わたくしたち、『本物のアルテミス嬢』に、大変申し訳のないことを、してしまったのでは?」


「……しかし、これで、『魔法令嬢、ちょい悪シスターズ』のリーダーとか言うんだから、真面目に闘っている他のメンバーも、討伐されている『悪役令嬢』たちも、浮かばれないよな」


「つうか、わたくしたちも、あることないこと言って、『精神攻撃』していたつもりなのに、単にあることあること言って、罪を正当に糾弾していただけじゃないの⁉」


「もうあんた、魔法令嬢としてだけでなく、世間一般の純真無垢なるJSとしても、大失格なんだから、とっとと死んだら?」


「うん、わたくしも本物のアルテミス嬢だとしたら、絶対イヤだよ、こんなのから、密かに想われていたりしたら」


「死ね」


「死ね」


「死ね」




「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」




「「「──死んでしまえええ!!!」」」




 もはや文字通りに、小学生レベルの悪口雑言のオンパレードになってしまい、さすがに堪らなくなった私は、一言言上する。




「──うおうっ、た、堪らん! 『アルたん♡』から蔑みきった目つきで、面と向かって存在自体を全否定されるなんて……ッ! もっと、もっと、プリーズ! もっと、私のことを、罵ってくれえええええええ!!!」




「「「もうやだ、こいつ、これ以上、相手にしてられるかってえの⁉」」」




 私の恍惚たるあえぎ声を聞くや、一瞬にして鏡の世界の中で、一つに合体して、目映い光を発しながら、どんどんと変化していく、無数の『アルたん♡』たち。




 そして、そこに現れたのは──




「──うふふ、随分と久し振りね、ヨウコ?」




 まるで花魁でもあるかのように、肩口から胸元にかけて大きくひらいて着崩されている、漆黒の着物に包み込まれた豊満なる肢体に、派手な意匠デザインを施された色とりどりのかんざしが挿されている、複雑に結い上げられたぬばたまの黒髪に縁取られた、化粧っ気の濃い艶麗なる小顔。




「……母、さん」



 そう、それは、3年前この手で斬り捨てた、実の母親であり、極東の島国である神聖皇国旭日ヒノモトを、恐怖と大混乱のるつぼに陥れた、先代皇帝の皇妃にして、九尾の狐の化身、クズノハ=タマモ=クミホ=メツボシその人であったのだ。

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