第5話

それからの日々は、石を拾い石を割る。

ひたすらそれの繰り返し。


少し慣れてきたせいか、黒曜石を見つける頻度が多くなった。

手頃な大きさの黒曜石を見つけると、その場で割ってみる。その作業にも大分慣れてきた。

まだまだ割って調べる様な大きさの石より、欠けらの様な黒曜石の方が多かったが少しずつ要領良くなってきてる事を実感していた。


捜索範囲も少しずつ広げて行き、時には木が生い茂る中を進み、時には川の中をずぶ濡れになりながら渡り。

まさに探検家気分。


今迄の自分の環境に無かった非日常的な中にいる自分に少し酔いながら、幻の石を探し求めた。


お腹が空いたら、ヨシばあが作ってくれた大きなおにぎりを食べ、疲れたら川辺の大きな石に座り川を眺めて休憩。

毎日の様に見ている川だが、川の流れを見ていると無心になれた。

海の打ち寄せる波を何故か、ずっと見てしまうものみたいな感じだろうか。


日が傾く頃には、石探しを止めナカさんの家に寄る。

陶芸をやっているナカさんの家には、色々面白そうなものがありナカさんの家に寄る事も日課の様になっていた。


ナカさんも自分がタケ爺の孫と言う事で、良くしてくれた。

勿論、石の話や石の割り方なども教えてくれて有り難かった。陶芸も見るのが初めてだったのでとても興味深く見させてもらっていた。


初めは、お客気分で見ていたが知らぬ間にナカさんの助手の様に手伝いをする羽目に。

でもそれもまた楽しかった。

やはり経験したことがない事は、新鮮で面白い。


『瑠璃』の話やタケ爺の話など、親よりも年上のナカさんだが楽しかった。


そして夕方になると家に帰る。

夕方に帰らないとヨシばあは、既に夕食の時間なので日が暮れる前には、きちんと帰った。


そんな毎日の繰り返し。

色んな事に慣れてはきたが……


一向に『瑠璃黒曜』を見つけ出す雰囲気すらなかった。

たまに願掛けの意味で、あの古い神社に行き長い石段を登りお参りもしたが……


夜、この辺りの地図を広げ…… この辺りか? いや、こっちの方かな? と考えて…… そしてそのまま地図の上で寝てしまう。



うーん、大学落ちた理由はこれだな。

考え込むと寝てしまう。

そもそも勉強が苦手なんだな。


考えるより行動するタイプなんだな。


都合よく勝手な解釈をする自分。

親が泣く。

唯一の救いが、ポジティブな事かな?

ポジティブで無ければ、幻の石なんて探さないだろう。


朝。

いつもの様に早朝から忙しくしてるヨシばあを見て、

「ヨシばあ、今日はおにぎり作らなくてもいいよ。パンでも買って行くから」


自分なりに気を遣って。


「そうかい? 別におにぎり作るのは大変じゃないけど。たまにはパンも食べたいよね。あーーそうだ、あの商店に売ってるパン美味しいんだよ! 何処かの町のパン屋さんで少しだけ商店に置いているんだよ。ここらの年寄り皆んなアンパンが好きでね〜〜 」


おっと意外な情報でしたな。

わざわざこんな集落の商店にパン屋さんのパンを置いてくれるなんて良いパン屋さんだなぁ。


これで昼飯の心配も無く、石探し出来そうだ。


早速、この集落で唯一のお店へ。

いわゆる何でも売ってる商店。

商品の数は少ないが、種類は多い。

日用品、生鮮食品、服まで売ってる。

山の中なのに魚も結構売ってる。

やっぱり年寄りが多いから肉より魚なのかな。


レジ横にパンが並んでた。

意外にパンは、数が多かった。お店の人によると、この集落の人はこのパン屋さんのアンパンが好きで毎日必ず売り切れるそうだ。パン屋さんは隣の隣町にあるそうだが昔、ここに住んで居た人らしくわざわざこの集落に毎日、卸しているそうだ。


噂のアンパンと2個しかない大きなメロンパンを買って、川へ向かう。


今日は、いつもよりかなり上流の方に。


ナカさんの近くにある赤い橋。集落の真ん中にある青い橋。その青い橋の上流には橋が見当たらない。地図上では橋はありそうだが、かなり上の方。

上流は橋がないので当然、木が生い茂る森を抜けて川まで行く事に。


上流と言う事で森を抜けるだけでも、一苦労。獣道すらない、ちょっとしたジャングルの中を川の方へ進む。蜘蛛の巣に絡まりながらも何とか川辺に。


少し雰囲気が違う。


川の流れもそうだが、石の感じも違って見えた。岩盤が剥き出し、流されて来たのか倒木があちこちに川に突き刺さっていた。

落ちてる石も丸い角の取れた石では無く、尖った物も多い。岩盤のかけた様な石や岩もゴロゴロしていた。


下流に比べ石の数は少ないが、今迄とは違う景色に少し期待した。


下を向き石探し。


半透明な石や緑色の石、真っ白や真っ黒。小さめだが色んな石があった。

真っ黒でも黒曜石では無いし……

場所が場所だけに石探しの効率は悪かった。開けた川辺とは違い。


ただ今迄貯めた経験値のせいか、そんな悪条件でも黒曜石を見つける事が出来た。

大きさも大きいと言う程では無いが割って調べる価値がある位の物。場所が悪いためその場所で割らず持ち歩く事に。

歩きづらい中、何とか手頃な大きさの黒曜石を三個程拾い大きな岩場で、割る事に。


何と無く緊張した。初めて来た上流で黒曜石自体も違って見えた。

ハンマーで一つずつ割る。


一つ目。


ん? 青っぽい色では無いが白い綺麗な筋が入っていた。ナカさんの家にもあったがこのタイプは綺麗に磨けば模様が素敵だそうだ。


二つ目。


普通〜〜。真っ黒な普通の黒曜石。


三つ目。


これは、別な意味で興味がある。

既に外側に赤茶色の模様が。

割ると…… 茶色いマダラ模様と黒い色が綺麗に混ざり合っていた。


「綺麗なんだけどな〜〜 」


残念。『瑠璃』は無し。


一息つくつもりで、大きな岩の上でパンを食べる事に。


何と無く、噂のアンパンでは無くメロンパンを手に取った。

大きいメロンパン。

持ってみるとフカフカ。かぶりついた。


旨っ!


何処と無く懐かしいタイプのメロンパン。グラニュー糖がたっぷりまぶしてある。その甘さが疲れを吹っ飛ばしてくれる。中は柔らかく、かぶりついた歯型がくっきり残る程。


「ありゃ? わざわざ上流に来て『瑠璃』は無かったけど…… すっごい幸せを感じる」


やるな〜〜 このパン屋さん。

『瑠璃』の次に魅了されてしまったメロンパンだった。


第5話 終

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る