第3話

小さく三つに割れた黒曜石。


いきなり一つ目の石で『瑠璃黒曜』が出る訳が無いと思っていたが、気持ちは昂ぶっていた。

三つに割れた石の欠けら。その中で一番大きな欠けらを手にし、じっくり見てみる。


…… 真っ黒。


黒いガラスの様な石には、何一つ他の色が入って無かった。

残りの二つの欠けらも……


勿論、真っ黒。


「そりゃそうだろ。幻の石なんだから…… 」


そう自分を慰め、昂ぶっていた気持ちを押さえた。

「よし! 次、次」

また下を向きながら黒曜石を探す。

昔の微かな記憶では、もっと簡単に黒曜石は取れた様な気がしたが意外に黒曜石自体が中々見つからない。


やはり黒曜石自体が少なくなったから『瑠璃黒曜』も取れなくなったのだろうか……


気が付けば二時間程過ぎていた。


広い範囲を探している訳では無く、初めに見つけた黒曜石の周りを中心に隈なく探していた。


結果的にあの後、取れた黒曜石は三つ。


どれも小さく指先程度の大きさ。

どれもが既に欠けていて、普通の黒い黒曜石だった。

意気揚々と石探しを始めたが、どっと疲れが出た。

神社の階段の登り降りが影響したらしく足腰がぐらつく位、疲れが出た。


石がゴロゴロとしている川辺。

転んだだけでもケガをする所ゆえ、今日は石探しを打ち切る事にした。


「瑠璃黒曜なんて、無理か〜〜? 黒曜石すら満足な大きさの物もみつけられないのに…… 」


初日にして心が折れそうになる位、石探しの難しさにぶちあたった。

既にガクガクの足で、何とか橋まで戻る。橋の上から見える神社。


「あの神社に登って、決意したんだな」


「まだまだ、一日目。明日、明日! 」

神社を見たせいで気持ちを切り替える事が出来た。まだ日は明るかったが帰る事に。

帰り道、何も無い道路沿いにポツンと一軒、家があった。農家でも無さそう。

集落から離れた所の一軒家で、家の側には沢山の薪が積んであった。

何をやってる人が住んでるのだろうと不思議に思い…… スクーターを止め、家の敷地を覗いて見る。

人が住んで居ない位、静かな雰囲気。


スクーターを走らせようとした時、ふとある物が目に入った。

家の玄関横に無造作に置かれた石。

目を凝らして見ると…… 黒曜石の様に見える。


まさか……


スクーターを道路脇に止め、勝手に家の敷地内に足を踏み入れた。


「こんにちわ〜〜 」


か細い声で言いながら、恐る恐る家の玄関の近くまで足を進めた。


やっぱり黒曜石だ。


大きな物から欠けた物まで沢山の黒曜石が玄関横に置かれてと言うよりかは、投げ捨てられてる様にあった。


石の近くに、しゃがみこみ黒曜石を手に取り見てみた。

自分が今日、見つけた黒曜石とは比べ物にならない程、大きな物や白や赤茶色の模様が入った物があった。

『瑠璃黒曜』では無いものの、ただの真っ黒な黒曜石では無い石を見て感動してしまった。


「もしかして『瑠璃黒曜』が、あるのでは? 」

と思い、沢山の黒曜石を漁り始めた。


「な〜〜に、やってんだ〜〜? 」


男の声が後ろから……


ビクっとした自分。

慌てて振り向き

「あっ! すいません。誰も居ないかと」


「何だ、なんか用か? 」


「あ、いえ。黒曜石が目に入って……つい」


「石好きか? 幾らでも持っていっていいぞ! 邪魔だからな」


「あの〜〜 黒曜石集めているんですか?

もしかして…… 『瑠璃黒曜』探しているとか? 」


「ははは。『瑠璃黒曜』だと。そんなもんもう無いわ! 」

豪快に笑い飛ばしながら『瑠璃黒曜』を口にした自分を否定した。


「やっぱりないんですかね? 」


「昔、昔の事だ。何だ兄ちゃん『瑠璃』探しに来たんか? 」


「あ、は…… はい」

小さく、とても小さな声で応えた。


「無駄な事は、やめとけ〜〜 時間の無駄だ〜〜 どっから来たんだ? 」


「最近、あの集落に来たんですけど。昔、祖父が住んでて…… 」


「祖父⁈ 爺さんか? なんて言う爺さんだ? 名前」


「えーーと、野上ノガミです。

タケ爺…… じゃなくてタケ……シだったかな? 」


「野上⁈ ……じゃ兄ちゃんは、タケ爺の孫か? 」


「は、はい。あの爺ちゃんの事、知って…… 」


「ははは、良く知ってるさぁ〜〜 ふふっ流石、血筋だな。タケ爺の孫も石好きだとは!『瑠璃』探しも爺さまの影響か? 」


「え? 爺ちゃんも『瑠璃黒曜』探していたんですか? 」


「知らんかったんか? タケ爺が此処で初めて『瑠璃』を見つけたそうだ。俺もまだ小さかった時だからよく知らんけど、よくタケ爺から聞かされていたんだ〜〜

そっかタケ爺の孫か! じゃヨシさんの所に居るのか? 」


「あ、はい。ヨシばあも知っているんですか? 」


「こんな田舎じゃ知らない人なんて居ないわ! みんな知り合いみたいなもんだ〜〜 」


「あの…… 本当に『瑠璃黒曜』は無いのですか? 」


「……あったら、とっくに俺が見つけて売っ払ってるさぁ〜〜 」


その言葉に、落胆する自分。

肩の力が抜け、思わず俯いてしまった。


「兄ちゃん。でもな! タケ爺もコツコツ諦めずに探し続けて『瑠璃』見つけたんだと。まぁ埋蔵金探しみたいに夢追うのも良いかもな! 浪漫ってやつか? はは」


祖父(タケ爺)の事を良く知る人に会い嬉しかったが…… それ以上にショックが大きかった。


やはり……


『瑠璃黒曜』は、もはや存在しない本当に幻の石となってしまったのだろうか……



第3話 終

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