第009話 「闘気使い僕」
五歳になった。
トトとの闘気の修行も始まった。
闘気とは、河原での事件でトトがイノシシを吹き飛ばした時に使っていた力だ。
ジジもこの力の使い手だ。
僕の闘気の才能がわかったのは、魔法の修行が始まってからしばらくしたある日の夕食後のことだ。
身振り手振りを交えてトトが自身が持つ力について説明しだした。
最初はよくわからなかったが、体の中にある力を外に出して闘う力の様だ。
ゴリラが身振り手振りで何かを僕に言わせようとする――滑稽でもある。
しばらく連想クイズの様なやり取りを繰り返した結果。
「闘気?」
僕がそれを言い当てるとトトは僕を指差して大きく頷いた。
トトの説明を聞くうちに僕は闘気のイメージがなんとなくできるようになった。
早速試してみる。
体の中の力に集中して、捕まえたその力を外に出して維持する――
《ボワワーン》
試して最初の一回目で闘気を体に纏うことができたのだ。
それはとても小さく弱い闘気だったけど成功には変わりない。
これにもトトとカカ、少し離れて見ていたジジもとても驚いていた。
僕からすれば、トトの言う通りにしただけなんだけど……
闘気が使えると言うのもこの世界ではとっても珍しいのだろうか。
僕から見える世界には4匹の動物しかいないからよくわからないけど……
考えてみると、闘気と魔法が両方使えると言うのが珍しいのかもしれない。
実際トトとジジは魔法を使えないし、カカは闘気を使えない。
ハクビも僕の真似をして試してみたが闘気を纏う事はできなかった。
もしかしたらこの世界では人という種族自体が特別強い力を持った種族なのかもしれない。
何れにしても妹達を守れるなら何でもいい。
♢
次の日から、カカが作った森の中の魔法教室で闘気の修行もするようになった。
魔法と闘気は全く別の力だ。
魔法は体の外にある力、言うなら外気に充満している力を形にする。
それに対して、闘気は体の中の力を外に押し出して形にする。
闘気を鎧の様に体全体に纏うと身体能力が格段に上がるのだ。
パンチやキックが強くなるのはもちろん、数十メートルジャンプしたり、目で追えない程早く動くことができる。
ハクビは家で試した時に出来なかったが、まだ諦めていないらしく修行に参加した。
ハクビは魔法だけに適性があるのだろう。
そう考えていた。
しかし、諦めずにチャレンジを続けたハクビは、数日後には闘気を纏う事に成功した。
そういうものなのだろうか?
闘気の才能は僕の方がある様だが、ハクビも闘気と魔法の両方が扱えることがわかった。
コロンは闘気にも興味を示さない。
魔法と一緒だ。
けど、僕とハクビが修行を見ているのは好きらしい。
いつも一緒に修行場までついてきて、楽しそうに僕らを見ている。
もしくは、ウトウトしてたりする。
近くの森で食べ物を見つけて、それをムシャムシャ食べている事も多い。
何かをムシャムシャ食べている事が一番多いかもしれない。
♢
トトの闘気とカカの魔法の修行は日毎に交代で行われる。
どちらもとにかく基礎に重点を置いている様に思う。
修行はそんなに楽しい物じゃなく、同じ動作をひたすら繰り返して体に刷り込んでいくことが多い。
そもそも他にやる事もなかったし、何より妹達を守る力を得るという目的がはっきりしていた為、単調な修行にも飽きる事なく精力的に打ち込めた。
思いのほか、ハクビも飽きずに根気強く退屈な反復動作を繰り返している。
魔法の修行内容はずっと変わらない。
5つの属性の魔法イメージを暴走しない様に力を調整しながら丁寧に形にするだけだ。
反復しながら少しずつ出力を大きくしていく。
闘気の方は、修行開始から1年間は安定して闘気を纏う練習だけをひたすらやった。
その後、『組手』と『鬼ごっこ』の修行も始まった。
どちらも闘気を纏いながら身体能力を底上げした状態でおこなう。
『組手』は、一対一の対戦形式で体術を学ぶ。
トトが教える組手には決まった型は存在しない。
ルールなし。
打撃や投げ技、絞め技なんでもあり。
絞め技で相手が降参するか、急所への寸止めの打撃が入ったら終了だ。
とにかく実戦を意識しているのだと思う。
命の取り合いの実戦にはルールなんてあるわけないのだから。
どんな形であれ相手を倒せば勝ちなのだ。
『鬼ごっこ』は、広大な森の中で鬼役を決めて追いかけたり追いかけられたり、隠れたり見つけたりする。
気配操作が最も重要だ
早く走れることがもちろん大切なのだけど、足音を消して気配を消して相手に気づかれずに近づいたり隠れたりする。
追いかける場合は、五感を研ぎ澄ませて相手の微かな気配にきづかなきゃならない。
これらの修行はそれから5年間ずっと続いた。
♢
闘気はハクビの野生スイッチが入った時にも役立った。
少し痛いくらいなので僕は全然気にしてないのだけど、噛みつかれた左前腕から血が出るとハクビが悲しい顔をする。
だから、闘気を前腕に込めて防御するのだ。
そうすれば傷は浅く血もほとんど出ない。
ハクビよりも僕の方が闘気が強いのもよかった。
あまり血が出なければ、ハクビも少しは罪悪感を感じずに済むだろう。
気にしなくていいって何度も言ってるのだけど……まぁ、そうはいかないハクビの気持ちもわからなくはない。
♢
『コントロールできる』闘気と魔法の量は格段に大きくなった。
なぜ『コントロールできる』を強調するかというと、僕もハクビも自分でコントロールできない量の力を持っているからだ。
未だに増え続けているのを感じる闘気と魔法の力は大きすぎて僕らは全く使いこなせない。
調整を誤って自分で扱える以上の力を出力して倒れてしまったことがある。
闘気の時は丸一日眠ることになり、魔法の時は数時間意識を失った。
ハクビも気を失う時間は僕より短いけど同じ様な経験をしている。
もちろん、ウチの過保護な大人達は大騒ぎだった。
意識を取り戻した時にはサルが覗き込んでいたことは言うまでもない。
僕もハクビが倒れた時は、ものすごく焦ったから過保護とは言えないかもしれない。
『もしかしてハクビは目覚めないんじゃないか』と考えたら生きた心地がしなかった。
いつもノホホンとしているコロンも、血相を変えてハクビを心配していた。
だから調整を誤らない様に許容範囲をしっかりと決めた。
それ以上の力はどんな状況下でも出力しない事を徹底した。
何年もくり返すうちに許容範囲以上の力にはしっかりとフタをすることができるようになった。
全力とは許容範囲の上限の事で、どんなに焦ったり急いだりしてもその上限以上の力は出さない。
その上でほんの少し許容範囲を広げて、慣れたらまた少し広げるのを繰り返す。
そうして『コントロールできる』闘気と魔法の力を大きくしていった。
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