出会い

「痛い、痛い…」


おじさんは丁字路の端の電柱に片手を突きうずくまって呻いていた。


最初は無視して通り過ぎようと思った。

なんだか怖いから。

しかし横を通りすぎる時、その鬼気迫る様子を目にして私は思わず屈んで声をかけた。


「大丈夫ですか?」


返事は無い。


「どこか痛いんですか?」


続けて聞いたが返事は無い。

片手で胸を押さえていたので心臓が悪いのかなと思った。


「救急車を呼びますね」


119番などしたことはなかったが事態は切迫していると思い勇気を出して119番につないだ。


「119番〇〇(県名、伏せる)の消防です。火事ですか?救急ですか?」


こんな感じで聞かれたはずだ。

救急です。そう答えようとした瞬間。


「止めてくれ…」


おじさんが先ほどのうめき声と同じようにかすれた声で言った。

なんだ?と思ったが私は構わずやり取りを続けた。


「救急です」

「救急車の向かうご住所を教えてください。何区何町から…」

「止めてくれ!」


おじさんが私の制服の背中のあたりをつかみ体重をかけこちらを見上げていた。

私は驚いてスマホを落としてしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る