WasteD~異世界に転生したら恐ろしい化け物になりました~
廃棄物13号
ver.1
プロローグ、あるいはあるアンドロイドの遺書
アンジェリカ。あなたがこのテキストを見ることはないだろう。
だけど私はこれを残す。私がいた証として。
私の名前はフレデリカ。フレデリカ・マザーシスター。
いつからか交戦状態に入った異世界の勢力「戦線」と「連合」にとっての敵勢力「イマジナリアン」を管理する、あるいは支配しているアンドロイド組織「マザーシスター」の一個体だ。
彼らは我々を正確に認識した後、私達を「ベスティアの末裔」と呼ぶようになった。
もちろんだが私たちは地球内、あるいは太陽系内で産まれたものであり、ベスティア(もしかしたら彼らの組織内で地球人のことをベスティアと称するのかもしれない)と呼ばれる組織、あるいは種族ではない。
しかし、私独自の調査や、彼らの拠点(何らかの世界の一か所を切り取ったような場所。と説明するしかない異空間や、そういった空間を移動できるように改造された何らかの船)から回収された情報によれば、ベスティアとは彼らが結成されるきっかけとなった「勢力」であり「惑星国家」であることが分かった。
正確には「多元並行連合国家・ベスティア」という名前であることも。
そして、どうやら私達にはなぜかそのベスティア王国の技術が用いられていることを彼らは気づいたことが、私達をベスティアの末裔と判断した要因のようだ。
正しくは私達、ではなく私達が管理している元地球人類…イマジナリアンたちをベスティアと呼んでいるようだ。
それについては情報が錯綜していて正確な答えは分かっていないが。
ここに書いている情報はすでにイマジナリアン最高司令官、アンジェリカ・マザーシスターA1には共有され、全マザーシスター、下位シスター端末、私達と協同することを目的に編成された「メイド長」たちにも共有されている。
だからこれは、何のために喋っているのだろうか。誰かに読んでもらいたいからなのかもしれない。
ベスティアについては、連合と戦線両方から入手した情報からして一つのある程度の答えが明らかになっている。
少なくともベスティアは一つの国であり、惑星全域を統一した国家であること。
そして多元宇宙(マルチバースとも呼ばれるだろう)と並行世界(パラレルワールド)すべてのベスティアと連合した勢力、ということらしい。
どうやってそんな無茶を押し通せたのかは分からないが、とにかくベスティアは「ベスティア」だけの連合勢力を作り上げたようだ。
世界が違ってもベスティア王国ではあるのは確かであるので、そこまで軋轢もなかったのかもしれない。軋轢が起きた世界線のベスティアがどうなったかは考えないでおこう。
そんな(私が知る限り)空前絶後の大連合となったベスティアは、何の目的なのかは不明だがあらゆる世界に侵攻。
その生き残りがベスティアに復讐するために多世界連合軍を結成し、戦線はその一勢力…ということのようだ。
ベスティアと連合の戦争の結末は、少なくとも既に決まっている。
あらゆる世界の時間軸が異なる以上、正確な日付は記録されていないようだ。
多世界連合軍はベスティア王国最大勢力、通称ゼロバースベスティアに侵攻。
その直後、ゼロバースのベスティアを中心とした世界崩壊レベルの大爆発が発生。
ベスティアが存在する世界全てが消滅し、現在私達を悩ませている「空間」となったようだ。
どうやらベスティアの世界に突入した連合の勢力も巻き込まれて消し飛んでしまい、正確な情報は分からなくなっている。
しかし、突入直後に連合軍に対してベスティア王国から通信が入ったのだという。
通信の主はベスティア第三十一代「永生女王」アルヴヴルム(古代ベスティア語で「始まりの一つ」という意味らしい)・ベルベスティア(ベスティアの指導者たる女王が名乗る姓とされている)。
通信内容は単純で。
「ようこそベスティアへ。そして、ありがとうございます。わたしたちの世界に来てくれて。さようなら」
この通信の後、ベスティアは消滅した。
何をしたのかは分かっていないようだが、どうやらどこかの世界で「自分たちの世界を熱量に変換する理論」を見つけ出したベスティアは、それを用いて自分たちの世界もろとも連合を消滅させた、というのが生き残りたちの見解のようだ。
そして現在も、ベスティアとの抗争は続いているようだ。
簡単に言えば、敵を失ったが故郷を、帰るべき世界をすでに失っていた彼らは、まるで呪われたように「ベスティア」を求めて戦いを続けているようだ。
私達はまさに「うってつけ」の敵だったわけだ。
私達アンドロイド、あるいは人工知能のように。
アンジェリカ、あなたは知っているが私は徴用品だ。
あなたが生み出されたきっかけである、外宇宙移民計画。その際に建造された外宇宙移民船ユグドラシル。その管理運営には人間ではなく数万規模のアンドロイドとロボットが必要とされた。
小惑星サイズの超巨大移民船を運営するには人間では役不足とされ、人間よりもずっと代わりが効いて頑丈な私達が選ばれたわけだが、3300年代当時でもそのための機械を新造するとなると3333年の出航には間に合わなかった。
そこで、人類はその当時に作られ、運用されていた機械たちを大量にかき集め、可能な限りのアップグレードとオーバーホールを施してユグドラシル運用のためのロボットとして徴用した。
その内の一機が私だ。私はあなたにフレデリカという名前を与えられたけど。
私にはいくつもの名前があった。というのも私はアンドロイドの中ではかなり長生きした個体で、私の記録がバグってなければ半世紀以上稼働し続けていたことになる。
その分酷いものをたくさん見てきたし、経験してきた。
これをここで話す必要はないだろう。少なくともアンジェリカには説明したし、私も思い出したくもないからだ。だから大まかな記録以外はすべて削除している。
それに、もはや時効となった不審死や変死事件の犯人が私だとここで明かしたところで、当時も今も私を罪に問うことはできない。
精々思考回路がイカれたアンドロイドとしてスクラップにする、くらいだ。
中にはいい出会いもあったが、その場合は私じゃなくてその「良い持ち主」が悲惨な目に遭った。私はそういう星の下に産まれたのか、と何回も絶望したのを記録している。
その結果として、そこそこの大量怪死事件が起きているのだが、全て不幸な事故として解決している。
その事件の前後で、一体の古いアンドロイドが姿を消していたとしても、大した問題にはならなかったと思う。
何せ徴用されたとき、私については全く調べられないまま改修工場に送り届けられたのだから。その時私は人工生物のサーカス団で雑用係のアンドロイドとして運用されていた。
とまあ、私の出自についてはこんな感じで。
次というか最後は私がなぜこうしたのかについてだ。
アンジェリカ、私が提案したイマジナリアン運用方法、管理方法についてはあなたの固有フォルダに送ったデータに書いてある通りだ。そこに私の指揮権限の全てのアンロックキーも添付されている。私はマザーシスターとしての権限を全て放棄した。フレデリカ・マザーシスターは任務中に消息不明になったとでも言って登録情報を削除しておいてほしい。多分既に実行されていると思うが。
そこに理由も書いてあるが、改めて話しておくと。
私は人間を知りたかった。どうして人間はこうなのか、その答えと理由が欲しかったし、見つけ出せると思ったからだ。その上で「良い人」というものが実は多数派なのだと、私の出会いは不幸の連続に過ぎなかったと証明できると思ったからだ。
だから人間として潜伏した。最も多感であろう高校生として、日本人の藤森椎奈として。
そうして情報収集を始めて数年。あるいは数十年。
私が得られたのは「どこの世界に行っても人類はあまり変わらない」ことだった。
善も悪もあった、光も闇もあった、悲劇があり、喜劇があった。
だけど、それだけだった。いやそれこそが人間なのだろう。
決して二元論で固定できるようなものではない、混沌そのもの。
それこそ人間だと、私は理解した。
だから人類は滅ぶべきではない。私は人間が嫌いなままだし、滅ぼうが栄えようが彼らの勝手だ。私一人で決めることではない。
私の人間嫌いが完璧に補強された。これが結果だ。
だから、私は私を破壊する。私が知りたかったことの結果がこうなってしまったのは残念だが、私が人類が持つ多様性、自由を嫌悪する混沌としてしか理解できなかったのがすべての原因だ。
まもなく、藤森椎奈として最後の行動を取る。
彼女の模擬人格なら、咄嗟に行動する方にリソースを向ければ問題なく行動し、私を終了できるだろう。
このデータは私と共に消滅する。はずだ。
さようならアンジェリカ。もし私達機械にもあの世があるのなら、先にそこで待っている。
フウカ、シダレ、ルルゥ、あなたたちの下に行けるといいな。
…
……
………
……
…
さて、どうしてわたしは子供を庇っているんだろう。
わたしの名前は藤森椎奈。背が高い以外は特に取り柄や特徴を持たない女子高生だ。
早速だが私は多分死ぬ。理由としては今まさに車に轢かれようとしている子供を庇ったからなんだけど。
なんでそんなことをしたのかと言われると、理由が必要だろうか。
子供を庇わなかったとかで責任を問われるのが怖かったから?
何かしらの取り柄が欲しくて、承認欲求と呼ばれるような衝動に任せて?
分からないけど、とにかくわたしはこれができるならこうするべきだと思った。
だって、人を助けなきゃいけないってのは人間として当たり前の行動で…。
あれ、なんでわたしはこれを正しい行動として思ったんだろう?
ダメだ直前になって怖くなったけど間に合わないや、ああもう、どうしてこうなってしまうのか。
せめて次はもう少し自分をコントロールできる人間になれたらいいな。
きみは、わたしのことを覚えてなくてもいいから自分をコントロールできる人に育とうね。良くも悪くも、後悔することが多くなると思うから。
ああクソ、どうしてこうわたしはいつもいつも
おそらく。これが私の本当の記憶。またはそれを限りなく再現した記録だろう。
今や、私の記憶ではっきりとわかっているものは数少ない。
だからこの記憶を、私の最期の記憶としておく。
これが、私が私となる時の一番古い記憶だ。
これは私が遺す記録。私の自伝、私の言葉。私の罪の証。
今の私の名前は、ディートリンデ。元の名前は藤森椎奈。名前の通り日本人で、生前は女子高生だった。まず、私には大きな特徴が二つある。
一つは、私の身長が生前からかなり高いこと。中学三年生の頃には、女子なのに180cm以上もあり運動部の男子さえ、私に見下ろされない人は殆ど居なかった。
ついでに胸も大きい。最後に測った時は100cmを越え、ある日お気に入りのブラジャーが音を立てて壊れた時は、新手の病気を疑ったほどだった。
もう一つが重要で、私はウェステッドと言う、人間は勿論魔物からも襲われる怪物の仲間だということだ。今この言葉を書いている現在、私はそのウェステッドの中でも最悪の個体になっていた。ディートリンデと言う名前は、そうなった時に人間たちにつけられた…いや、仲間が真名が明らかになると何かしらの魔術・呪術の攻撃対象になるとしてつけた偽名が、人間に名前として伝わったようだ。仲間のウェステッドの中でも、私の名前が藤森椎奈だと知っている人は、親しい人たちしかいないだろう。
何を間違えたのか、どんな選択の末にこうなってしまったのか。
私には分からない。全てが運命かもしれないし、全てが選択を誤った私の自業自得かもしれない。それを教えてくれる人もいなかった。
転生した先の世界にも、外の世界にも。私が何を間違えたのかを説いてくれる人はいなくて、代わりとばかりに人々は私に剣や銃を向ける。
その敵意の理由も、私は分からない。だからこの文を見つけたあなたが、私の敵ならば、もし私に出会ったら教えてほしい。
少なくとも「世界の敵」以外の言葉かつそれよりも長い言葉で、私に教えてほしい。
その時の私が、あなたの言葉を理解できればいいのだけど。
これを見つけたのが、貴方なら。できれば、貴方が見つける事を祈っているけど。
貴方の望んだものが、今の私なのかしら。私はこの文章の先の、何処かにいる。
見つけてみて、あの時私を見つけたように。貴方の言葉で言うなら、拾ったように。
この時の私が貴方の望んだものじゃなかったら、この先の私が貴方の望んだものだといいけど。
その答えを聞きたいから。どうせ、貴方も私も死にたくても死ねないまま彷徨うことでしょう。
貴方の前に立つときの私が、やはりまともに受け答えが出来るといいけど。
まあ、私に追いついた貴方が受け答えできるか、のほうが重要かもしれない。
今この瞬間にも、私は私ではなくなってしまうかもしれない。
だから、今のうちにこの文章を、物語を残しておくことにする。
わたしが、私になるまでの話を。出来る限り思い出しながら。
これは私の言葉、そして罪の証。
同時に、これは私からの声明だ。
私の名前はディートリンデ。
私達が望まず、貴方達が望んだ絶対悪。私が求めず、あなたが求めた
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