月型駆逐艦(Moon-class destroyer) 2
「どうぞこちらです」
御調少尉に導かれ、海軍工廠内を進んでいく。いくつかの施設内を経由する途中で、見慣れぬ工機を目にする。合衆国よりライセンス導入された
「これはなんじゃ?」
「触るな」
前を歩くネシスが砲弾を手に取ろうとしていた。玩具でも目にしたように、らんらんと瞳を輝かしている。
「ケガをするぞ」
「妾の身を案じてくれるのか?」
振り向きざまにネシスは片方の口角を上げた。
「巻き添えを食らいたくないだけだ」
儀堂は表情を固定して答えた。
工廠では、戦車から空母まで陸海空あらゆる兵器が製造されていた。
御調少尉はさらに奥へ進んでいく。
「お主の船はここにはないのか?」
「何の話だ?」
「妾を黒い月より墜とした、あの
「<比叡>のことか? あれはここにはない」
戦艦<比叡>は中部太平洋、トラック泊地へいるはずだった。そこで新編された第三航空艦隊とともにBM出現に備えている。
「それからあれは私の艦ではない」
「そうなのか? それにしては手足のように扱い、妾を翻弄してくれたではないか?」
「……気になっていたのだが、お前はなぜ<比叡>に私が乗っていたと知っているのだ?」
六反田に聞く限り、3年前のハワイ沖開戦以降、ネシスは昏睡状態だったはずだ。儀堂がハワイ沖で<比叡>の指揮を執っていたなど、知る由はないはずだ。
「知っているも何も、妾は見ておったからな」
「何をだ?」
「妾を堕とそうと足掻く、お主の顔を月より眺めておった」
「またぞろ妖術の類いか?」
「その品を欠く言い方は止めよ。せめて魔導と言うが良い。まあ、よい。とにかく、そこで確信したのじゃ」
「何をだ?」
「こやつならば妾をあの月より解いてくれるとな。お主のように地獄の戦禍の中で悦にひたるようなものならば、きっとこの殻を割ってくれようとな。実際にそうなったわけじゃが、よもや3年も眠るとは思いもせなんだ」
「オレは悦に浸ってなどいないが……」
そんな余裕はなかったはずだ。ただ生き残ることだけを考えていた。そのはずだ。振り向いたネシスは表情を消しさっていた。
「妾をたばかるな。お主は確かに嗤ったぞ。妾に
「………」
しばらくして儀堂達は工廠内の最奥区画へ辿り着いた。機密性が高い区画であることは一目で明らかだった。護衛の兵士が周囲に配置され、至る所に監視所が設けられている。恐らく見えないところにも見張りが配置されているのだろう。
施設前の検問で御調少尉が通行許可証を取り出す。兵士は機械的に内容を精査すると、「どうぞ」と短く答えた。
御調に続き、儀堂とネシスが入る。そこは船渠のひとつで新型とおぼしき艦が艤装中だった。
――秋月型か?
砲塔の形状を見る限り、秋月型駆逐艦に似ていた。しかし駆逐艦と称するにはあまりに難があるようだった。船体が縦にも横にも大きすぎる。少なく見積もっても排水量は4000トンは優に超えそうだ。軽巡に分類されても不思議はない。
「御調少尉、この
「新造の駆逐艦です。艦名は<
御調少尉は懐から封筒を取り出すと、儀堂に手渡した。その封筒は少しばかり熱を帯びていた。
「儀堂大尉、僭越ながら
※次回11/8投稿予定
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