彷徨える海(Flying object) 2:終
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「対獣戦闘用意!」
確固たる決心で倉田は総員へ告げる。
<粟国>後方500メートルには<室津>が続いていた。二段構えでサーペントを叩く作戦だった。<粟国>が討ちもらした場合、続いて<室津>が対処する手はずだった。
<粟国>は最大速度の20ノットでサーペントを目指した。敵との距離が1500を切ったときだった。水測室から殺気だった声で報告がもたらされる。
「水測室より、注水音確認!
「取り舵用意!」
「敵獣、轟雷発射! 真っ直ぐ本艦へ向かってきます」
<粟国>の見張り員からすぐに報告が入ってくる。楕円形の塊が航跡を描きながら、真っ直ぐ<粟国>の艦首へ向かってきていた。
轟雷はサーペントが所持している攻撃手段のひとつだった。平たく言ってしまえば、指向性を持つ空気の刃だった。サーペントは喉に
倉田は電話をとった。
「水測室、敵獣の進路は?」
『変針しおったです。本艦左30度へ向けて航行中』
「了解した。取り舵一杯、ヤツを逃すな」
操舵手が舵輪を回し、<粟国>の小さな船体が波にもまれつつ、傾斜する。兵員達は近くの手すりや防弾帯につかまり耐えた。数秒後、<粟国>の脇を
「艦橋より水測、状況を報告しろ」
『方位右5……いんや6になった。距離170!』
「目標照準! 散布爆雷、投射!」
<粟国>の艦首、第一砲塔の背後から24個の爆雷が吐き出された。それらは敵獣の潜伏予想海域へ降り立ち、海底をめざし直進していく。<室津>も同様に散布爆雷を投射し、運命の瞬間を待ち望んだ。やがて諦めかけたとき、海中より数本の水柱がたった。しばらくして巨大な肉片が浮き上がってきた。千切れたサーペントの頭部だった。浮き袋に貯まった空気が主の頭部を海面へ誘ってきたらしい。大きさは7、8メートルはありそうだった。
「デカいな……」
倉田は思った。こんなヤツの轟雷を食らったら、いくら海防艦でも無事では済まなかっただろう。
「よし、帰投しよう」
倉田が<室津>へ帰投命令を下そうとしたときだった。電探室から感ありの報告が入った。一三号対空電探が
倉田は上空の物体に無線で呼びかけさせたが、反応はなかった。倉田は戦闘配置を継続させることにした。
「対空警戒、厳にせよ。それから横須賀のEF司令部へ打電しろ」
実のところ、飛行型の魔物の遭遇率はかなり低い。BMの周辺以外ならば滅多に遭遇することはなかった。はっきりと検証されたわけではないが、それら魔獣は海を越えて極東の島へ渡ってこれるほどの
魔獣でないのならば、前触れも無く現れる飛行物体など倉田の知る限り一つしかいない。
――BMか。
かろうじて恐怖を表情に出すのを抑えつつも、倉田は冷や汗が伝っていくのを感じた。艦橋内が無言に包まれる。
電探の反応は刻々と強くなり、そろそろ姿が見えようとしたときだった。
空中からはじけるような爆発音が響いてきた。雷かと思ったが、すぐにその予想は否定された。
背後で閃光に続き、火柱が上がった。
「艦長、<室津>が炎上しています……!」
見張り員の報告を受け、倉田は急いで艦橋の対空指揮所へ上った。
「なんだと!?」
いったい、いつ攻撃を受けたのだ?
あの空中の爆発音と関係があるのか?
いや、その前になにものなのだ?
それらの疑問は数分後に解消されたが、EFへ報告されることはなかった。
答えを知るもの全てが<粟国>と共に海中へ没したためだった。
◇========◇
ここまで読んでいただき、有り難うございます。
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今後も宜しくお願い致します。
弐進座
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