28
「おかえり~!!」
父さんの執拗な「帰れコール」に耐えかねて。
一月。
あたし達は二階堂に戻った。
けれど、みんなが待ち望んでたのは…海。
「おおっ、もう、つたい歩きができるのか!」
「海くーん、ばあちゃんのとこ、おいでー。ここでちゅよー」
「あっ、笑いましたよ!」
「いい笑顔でちゅねー」
「……」
もはや、うちのアイドルと化した海は、常にみんなの輪の中にいる。
ま、あたしとしては、とっても楽なんだけど…
……寂しい。
「おう、帰ったのか」
ずっとベッタリだった海をみんなに取られた感じがして、少し離れた位置で遠巻きに見てると…
陸が学校から帰ってきて、みんなが赤ちゃん言葉になってるのを見て首をすくめた。
「…おかえり」
「おまえも、おかえり」
陸はあたしの隣に腰を下ろすと。
「元気だったか?」
顔だけ、あたしに向けて言った。
「うん。大学行くんだって?」
「ああ、一応な。跡継がないっつっても、いざとなった時に助けられるくらいのことは身につけとこうと思って」
…陸、背が伸びた。
目線が前より少し高い。
「…何、ジロジロ見て」
「ううん、大人になったなーと思って」
「んだよ、それ」
「バンドはまだ組まないの?」
「大学入ったら光史とメンバー探ししようぜとは言ってるけど」
「まだそんなレベル?もうとっくに組んだのかと思ってた」
「しっくり来る奴がいねーんだって」
「早くデビューして大儲けして、アメリカとかにバーンと別荘でも建ててよ」
「ま、そのうちな。おっ、海。大きくなったなー」
足元まで這って来た海を、陸が抱える。
「ほら、じいちゃんとこおいでー」
「兄ちゃんがいいってよ」
「あら、あんたは叔父ちゃんなのよ?」
「るせっ」
みんなが笑顔になれるって…いいな。
もう少し向こうにいたいって思ってたけど…
父さんと母さんの笑顔を見てると、これで良かった…って思う。
「…環は?」
環がいない事に気付いて万里君に問いかけると。
「報告書を書いてると思います」
万里君は視線を海に向けたまま、そう言った。
「…報告書?あたしと暮らしてた報告書?」
「あっ、すみません。違います。向こうの現場の報告書です」
「…向こうの現場?」
あたしのキョトンとした顔に、万里君もキョトンとして。
次の瞬間…
「…環、何も言ってなかったんですか…」
目を細めた。
「…あ…うん…」
万里君は目を細めたまま、あたしに少しだけ近寄って。
「では…今のは聞かなかった事に…お願いできますか?」
って、口の前に人差し指を立てた。
「…聞かなかった事にするから、全部教えて?」
「……」
口には出してないけど、万里君の胸から『お嬢さーん』って声が聞こえる気がした。
「…二階堂の大元はここだと言う事は…ご存知ですね?」
「うん」
環に教わった二階堂の歴史。
それは、本当に大昔からの秘密組織で。
100年前にはドイツにも、そして70年前にはアメリカにも組織を広げた。
そして、そこから世界に向けて…二階堂でしか取り扱えない現場の指揮を執るのが…トップである父さんや、今ドイツにいる甲斐さん、アメリカは浩也さん。
死者を出さない。
どんな現場でも、これが大前提…らしい。
「環、向こうではかなりハードに現場に出てたようで…」
「えっ?」
え?え?
いつも晩御飯作ってくれたり…
勉強も見てくれてたし…
家の事もしてくれて、海の面倒も見てくれて。
食事も絶対一緒に食べてたのに??
あたしが唖然としてると。
「…安心しました」
ふいに、万里君が優しく笑って言った。
「え…?」
「環、ちゃんとお嬢さんをお守りしてたんだな…と」
「……」
「本当、あいつは優秀な奴です。仲間として誇りに思います」
もし…毎日現場に出てたと知ってたら…
あたし、色々気を使ってたかもしれない。
「くれぐれもオフレコでお願いしますね」
「…うん。ありがと」
あたしは…思った。
あたしが継ごうとしてるのは…生半可な気持ちでは務まらない。
これから、もっともっと勉強して。
守られるだけじゃないあたしにならなくちゃ…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます