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 こういうときに明里が思い出すのは、いつも憧れている前生徒会長の言葉だった。

 前生徒会長は明里に次の生徒会長を任せるときのアドバイスとして、「明里は恋をしたほうがいいよ。恋をすれば明里の人生はきっと変わるよ。きっと、もっと楽しくなる」と、そんなどのあたりが生徒会長というすごく大変な役職のアドバイスなのか、よくわからないアドバイスを明里にしてくれていた。

 恋と聞いて明里がすぐに思い出すことは、それは前生徒会長が生徒会長になった理由が、恋愛禁止の校則がある学院において、好きな人と堂々と恋愛をするためだった、ということだった。

 前生徒会長は生徒会長に就任して、その公約を果たし、見事その恋人と正々堂々と学院時代、恋愛をした。


 もしかしたら、前生徒会長にとって自由の獲得とは、恋愛の自由であり、恋愛の自由こそが、あらゆる自由の獲得につながるもっとも意味のある最初の自由だったのかもしれない。

 ……自由。自由とは成熟するということ。

 明里は自問自答をする。

 ……恋。自由。成熟。

 つまり、恋をすれば人は成熟して自由になる、……ということなのだろうか? とてもそうは思えないけど、でも、実際に明里の周りでも恋をしている早月と椛は自分よりも確かに成熟しているし、自由であるようにも思えた。

 でも、じゃあ結衣と真由子が成熟していなのかと言われると、そうとも思えないし、あるいは二人は彼氏がいないだけで、誰かに恋をしているのかもしれないけれど……。

 ……それに、私も。


 答えを聞きたい。

 明里は前生徒会長のところに相談しに行こうかどうかすごく迷っていた。

「はぁー」

 明里は信号待ちのところで、三回目のため息をついた。

 信号が青になったので、明里は周囲の人たちと一緒に大きな十字の形をした横断歩道を渡り始めた。

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