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「あ」突然、椛に手を握られて小春は言う。

 そのまま椛は公園の中を軽快なリズムで走り出した。

「あ、あの」椛に手を引っ張られながら、小春は言う。

「ほら! 早く早く。高松さん!」

 とても楽しそうな顔で、小春のほうを振り返りながら、椛は言う。

 その顔が、その声が、本当に嬉しそうだったから、少し恥ずかしかったけど、まあいいかな、と思って、そのまま小春は椛と一緒に図書館まで、手をつないだまま、小走りで移動した。


 図書館の入り口の前で、「ちょっとすみません」と言って、時間をもらい、小春はそこで軽く深呼吸をした。

「準備できた?」椛が言う。

「はい。できました」小春は答える。

 それから図書館の休憩所に行くと、そこには椛が言った通りに確かに恵と、……それから彼、神田優がいた。

「あ、来た来た! おーい、小春。山里さん。こっちこっち。ほら、神田くん。見てみて。ね、だから言ったでしょ? 小春は絶対にここに来るって」

 恵はとても嬉しそうにそんなことを隣に座っている優に話かけていた。

 椛とも仲良くなっているようだし、さすが恵だ、と小春はいつも通りに恵の人と仲良くなる能力の高さに改めて今日も感心した。

 椛に連れられて、小春は休憩所の中に移動して、恵の横の長椅子に座った。椛は優の隣に座った。

 これで二つある長椅子には小春と恵、それから優と椛が並んで座ったことになった。

 小春と優の二人の距離は今までで一番近くなった。

 でも、二人とも下を向いていて、お互いに相手の顔を見なかったし、なにも言葉を話そうともしなかった。

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