190

「森野はさ、好きな人っているの?」絵里は言う。

 すると、その絵里の言葉を聞いて、忍はすごく変な顔で、絵里を見た。

「……それをお前が俺に聞くのかよ」と忍は言った。

「どういうこと?」絵里は言う。

「どうって、……お前、俺の気持ち知っているだろ?」と忍は言った。

 やっぱりか。と絵里は思った。

 絵里は「はぁー」と大きくため息をついた。

「なんだよ。そのリアクションは」と忍は言う。

「……もしかして、森野。中学の告白のときからずっと、……その、私のことが、好きってこと、……だよね?」絵里は言う。

「……ああ。そうだよ」と少し間をおいてから、照れ臭そうにして、忍は言う。

 そんな忍の顔を見て、絵里は思わずふふっと笑ってしまった。

「なんだよ?」

「なんだか森野っぽいなって思ってさ。純粋なんだね。森野は」絵里は言う。

「それをいうなら、お前だってそうだろ?」忍は言う。

「なんのこと?」

「……真冬のことだよ」忍が言う。

 その忍の言葉で、絵里の笑顔は消える。

「お前、まだ真冬のことが好きなんだろ?」忍は言う。

 そんなことに気がついている人なんて誰もいない。そう思っていたけれど、親友の芽衣と、それから幼馴染の忍には、絵里の気持ちは完全にばれているみたいだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る