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 木野葵は雨を見ながら考える。

 もしあの日、蓮さんと会えなかったとしたら、もしあの日、蓮さんが私の告白をきちんと受け取ってくれなかったとしたら、私は今、どんな人生を歩んでいたんだろう? ……と。

 そんなことを、葵は、不謹慎だとは思いつつも、冬の雨の日には、たまに考えてしまうのだった。

「……おかーさん。……おとーさん」

 眠たい目をこすりながら、娘が目を覚まして、二人のいる部屋の中にやってきた。

「なになに? どうしたの?」

 葵はすぐにそんな娘のところに駆け寄って行く。

 そんな二人の様子を蓮は、優しい顔で笑いながら、いつものように見守っている。

 これから、とても明るい家族の団らんの時間が始まる。


 ……やがて時間が経過して、小さな家の明かりが消えるころになると、冬の日に降る雨は、誰にも知られないように、真っ暗な夜の中で、いつの間にか止んでいた。

 窓の向こうに見える、雨上がりの夜空には、明るい星と、明るい大きな月があった。

 ……だから、明日はきっと、晴れになるだろう。

 そんなことを葵は思った。


 大丈夫だよ。心配しないでね。


 葵 終わり

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